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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
足元がガラガラと崩れていくようだった。
何もかも終わりだ。あの絵本の王様のように、ハイネはこの国でたった一人になってしまう。その思いが頭を占めて、それ以外何も考えられなくなる。
「ハイネ……」
ガチャ、と音がして手を繋いでいた鎖が外される。目の前には動揺した娘が立っていた。
「っ!」
獣のように飛んで、その小さい肩を掴んで床に倒すと、そのまま噛み殺さんばかりに鬼のような形相で顔を寄せた。
「なんでだ! 僕をどうしたかった! 全てを明らかにして僕をどうしたかった!!」
「っあなたを、外に出したかったのよ! ひとりでいるから! 醜くなったから自分のこと嫌いなんでしょ! でもあなたが自分のこと受け入れなきゃ、誰も受け入れないわ!」
爪を食い込ませ、おぞましい顔が睨みつけているというのに彼女は一瞬も怯まずにそう叫んだ。
「あなたを愛してくれる人がいるかもしれないのに、あなたが自分を嫌うから!」
今まで向けられたことのない種類の感情に満ちた目に、ハイネは怯えた。
頭に上っていた血が一気に冷えて、視線を逸らし、手を放す。
「……もういい」
その視線が怖かった。怯えているのも、嫌悪も、恐怖で泣きそうな顔もたくさん見てきたけれど、こんな顔は初めてだった。
(どちらにしろ、今更だ)
今にも、この醜い生き物が国を牛耳っているのを快く思わない国民たちが、群れて討伐しようと城に攻めて来るのではないかとぼんやり思う。本当はずっと、それを求めていたのかもしれないとぼんやり思った。
誰かが、自分を殺してくれる日を。
だってずっと隠しておくなんて無理だ。本当はもう随分前から、そのことに気づいていた。
(ああ……それなら、それもいいか)
「ハイネ……」
例えば死ぬ間際、目の前の娘が少しでも泣いてくれたら、きっと自分は喜んでしまう。それがとても悔しい。
「――見つけたぞ! モンスターめ!!」
けたたましい音を上げて扉が開く。
どこかで聞いた声だ。そう思った時には、目の前に切っ先が輝いていた。
「ハイネ様!!」
聞きなれた声が響いた。