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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
***
ジバルは本名ではない。
もちろんいつかは、本来つけられていた名前で呼ばれていたのだろうが、それを知る術はない。
母親は弱かった。異国の地で、異国の男と一緒になったというのに、ジバルを産んで一人で死んだ。父親はといえば、彼女の捨ててきた様々なものを分かっていただろうにあっさりと彼を売った。
売られたのはサーカスだった。
「世にも奇妙な悪魔の子供」そういう名目でジバルの存在はそれだけで見世物だった。褐色の肌と鮮やかで濃い緑の光を発する瞳や、おおよそこの地の者よりも大柄な骨格や、バリバリとした黒い髪や、それら全てが彼らにとっての娯楽だった。
サーカス団長は小児性愛者だった。幼い頃から彼は真夜中になると部屋に呼ばれ、穴という穴に凶暴な楔を打ち込まれた。サーカス団長はサディストで、変態性欲者だった。
息をするさえ忘れるような激痛の中で、ジバルはいつしかこの苦しみから逃げだせるならなんだってやってやると思っていた。
このいかれた世界から逃げ出して必ず生き延びて、あっさりひとりにして死んでいった母や、ほんの僅かな金で売った父親なんかよりずっとずっと豊かな暮らしをしてやると誓った。
そのチャンスが巡ってきたのはサーカス一行が豊かな国についた時だった。はじめて見る人の多さに紛れて逃げ出したところを団長に捕まり、力いっぱいの暴力を全身に受け、連れ戻される絶望に体の力を抜いた時、声がした。
「それは、なんだ?」
それは例えるなら羽毛。暖かな太陽の光を浴びて豊かに育ち、フワフワとした空気に包まれたような柔らかな声だった。
髪を掴まれた手の力が緩むのを感じて、そっと顔を上げるとたくさんの護衛に囲まれながら、大きな傘の間から今まで見たこともない美しい生き物が顔を出した。
幼さを残したそれは性別や生き物という枠を超えた、同じ人間という種類とは到底思えない輝きを備えていた。陽の光にあたれば発光するような白い肌に細い金の髪。透き通った青い目は感情の動きが一切見えなかった。
「ふうん」