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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
反対に、まだ幼かった王子はたった一人で部屋に閉じこもることが多くなった。世話をされている時、ジバルの前では一切感情を表に出すことがなく、その揺るぎない絶対的な存在にジバルはますます陶酔した。
そんな王子も時折、感情を見せる時があった。それは近隣国の婚約者が来た時で、よく中庭にある小さな礼拝堂で話しているところを見かけた。
その時の王子を見ると、ジバルの胸には何かたまらない気持ちが湧いて、見ていることが出来ない。感情を一切表に出さず、何に対しても執着をしない。全てのものに平等に接する彼が、「人らしく」しているのがジバルには耐えられなかった。
しかしそんな日々も終わりを迎える。十年後に婚約者が逃げた。王子が結婚できる十六歳の誕生日の前日だった。彼女が別の貴族と駆け落ちしたのだ。政略結婚が盛んだった時代、そういう話は珍しくなかった。
王は怒り狂い、反対に王子は静かだった。その知らせを聞いても彼はやはり無表情で「そうか」とだけ呟いた。
ジバルはその時初めて王子を抱き締めたくなった。あんなにも笑いあっていたのに、なぜこんなにも平然としていられるのかが理解できなかった。同時に、ジバルの望んでいる王子然とした態度に内心安堵も覚えていた。
夜が更けて、いつも通り警備を兼ねて城の周囲を歩いていると物音がした。賊が侵入したのかと急いで走っていけば、そこにいたのは肩で息をする王子一人だった。
「こんなもの、こんなもの!」
彼は月夜に照らされながら、そこに立っていた女神像を倒し、飾りほどの意図でしか持っていなかったナイフで何度も突き刺し、最後にはそれさえ捨てて拳で、足で、その石像を粉々にしていた。
その姿に彼の中の情熱が初めて見えた気がした。人間らしさをありありと見せられた気がして、がっかりした。
ジバルの中で神格化されていた少年は、つまらない女に捨てられたことに腹をたてているただの子供だった。愛する人に裏切られ傷ついた哀れな少年だった。その像の欠片で怪我をしやしないかと、それだけを心配しながらその背中を見ていると、急にその欠片達が光を放った。