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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「王子! こちらへ!」
ジバルは咄嗟に前に出て王子の腕を掴んで引き離した。彼は思いがけない忠臣の登場に驚いたのか、目の前の発光に気を取られたのか、目を見開いてなされるがままだった。
その光はすぐに立っていたままの女神像の形をとった。
『愛を信じられない愚かなお前は、世界で一番醜い。今この瞬間から、その心の醜さを悔いて誰かに愛し愛されるまで、その姿のまま生きるが良い』
女神はそう言うと、瞬きをした瞬間には何もなかったかのように消え失せていた。夢だったのだろうかと遠くの星空に目をやると、後ろからおぞましい声がした。
「う、ぅぅ、ぅ、あ、ああ……じゃ、ない、僕じゃない、僕じゃない!!」
見ると王子は両手で顔を覆い、唸るようにそれだけ繰り返していた。しかしその様は、さっきまで背にしていたはずの天使のような小柄さをなくし醜い獣へと変わっていた。
「おう、じ……」
「っ見るな、見るな、見るな!!!」
ジバルの声に、その存在を思い出したのか、指の隙間から覗く二つの青い眼が怯えるように揺れ、後ずさった。
その時、ジバルの心に宿ったのは恐怖でも嫌悪でもなく、紛れもない喜びだった。
(ああ、この方は今、間違いなく自分という存在に恐れを感じている。嫌悪されることを恐れ、その醜さに顔を背けられることを恐れている。この小さな子どもの心を傷つけるのも安心させるのも、すべてオレの反応一つ)
その瞳の奥で光るすがるような揺らめきは、ジバルには覚えがあった。ジリジリと後ずさる王子の体を、――もはやジバルと同じかそれ以上に膨らんだその体を、彼は両手を広げて抱きしめた。
「大丈夫です。あなたは、どんな姿であってもその高貴さは変わらない」
そう、嘘をついた。
本でしか見たことのないクマや、牛や、それ以上におぞましい見た目に変化した醜い彼に完璧な笑顔を浮かべ、安心させるように背中をさすった。