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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
しかし愛らしい見た目に心を奪われた王はそうではなかった。王もまた眠れぬ夜を過ごしていたのか何事かと姿を見せたのだ。
ジバルに慰められる王子は怯えながら、けれど一縷の望みをかけたような眼差しで「父上」と自分の正体を伝えた。
王は目を見張り、口元を覆った。
「なんと醜い生き物だ! こんな化け物を生かしておくな!」
見るに絶えないという風にして後ずさると、少年はいよいよ解ってもらおうと立ち上がった。
「父上、僕です、王子の……」
「ええい、近づくな! 貴様のようなもの! 俺の王子はどうした!」
近づく王子に後ずさりをしながら、国王は壊れた石像の傍に落ちた王子のナイフを拾った。その滲み出した殺意に王子は言葉を失い、ジバルは口を開いた。
「国王! この方なのです。この方が、王子なのです。女神に呪いをかけられたのです」
「……呪い?」
そこでようやく足元にばら撒かれた砕かれた女神像の残骸に気づいたようで、それと変わり果てた王子とを見比べた。
王は落胆と困惑と絶望と、なんとも言えない感情の波に頭を抱えながらうんうん唸っていた。次に顔を上げた時、彼の目にもう王子は映っていなかった。
「わかった、わかった。何てことだ、おい、そこの、お前、その生き物を斬れ」
「王!」
「うんうん、わかっている。わかっているが、ソレはもう俺の愛しい我が子ではないのだ。今夜、あの子は死んだのだ。悲しい。とても悲しいがそれでも、現実は受け入れねばならん。今夜王子は不慮の事故に遭い死んだのだ。そう、娘が駆け落ちをしたことを苦に自殺したのだ。全てはあの愚かな小娘のせいなのだ。勿論あの者たちには責任を問う。だがもうあの子はいないのだ。天使のように美しい俺の愛しい我が子は死んだのだ。何をしている、早く殺せ、殺せ!」