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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
その言葉に唖然とすると、彼は今まで笑い転げていたことなどなかったようにすっくと立ち上がり、自分の手をまじまじと見てから自分の父親だったものの隣に、躊躇なく両手を使い犬のように土を掘り返して穴を開けた。大きな爪と手はそのために作られたようにやすやすと大きな穴を作り出し、またその肉の塊を食べ残しのように顔色一つ変えずにポイポイと落とした。
「国王殺しは重罪だぞ。王は今夜、呪いをかけられた。醜い生き物に代わってしまった。黒い髪、褐色の肌にこの世のものとは思えない凶暴な肉体をもった生き物に」
まるで大昔からある絵本の一節を読むかのように、目の前のモンスターはぽつりぽつりと語り、ゆっくりとその穴に落とした物に土をかけていく。そのボタボタという音にハッとして、ジバルは剣をその場に落としてすぐに反対側から同じように跪き、かつて王だった肉塊に土をかけた。
唯一の親を、肉親を亡くしたばかりだというのに、月光に照らされる哀れな王子は悲しみ一つ見せず、黙々と静かな埋葬を続けた。否、もしかしたら悲しんでいたのかもしれない。ジバルの察することのできない遥か遠い場所で彼は悲しんでいたのかもしれない。それでも見た目を醜く変えてしまった彼の表情を読み取ることは困難だった。
醜い生き物たちの秘密の埋葬が終わると、彼は埋めたばかりの柔らかな土をザラザラと撫で、微かに口元だけを動かして呟いた。
「……外に出ようとしたから、罰が下ったんだ」
王にではなく、独り言のように呟いたそれに、ジバルはまるで後頭部を強く殴られたような衝撃が走った。
王子は婚約者を愛していたんじゃなかった。自分の人生を達観していたわけでもない。彼はずっと長い間、この黒い塔に閉じ込められていた十年もの間、どうしたらここから出れるかを考えていたのだ。その一筋の光が結婚だった。ほとんど存在が消えたものとして国民に忘れ去られた幼い王子は、結婚することでまた外に出られるようになると信じていた。
その希望が断ち切られ、果てには国王まで死んでしまった。それを、目の前の小さな生き物は自分が逃げようとした罰だと思い込んでいる。
(なんてことだ……)
ジバルは言葉が出なかった。喉が震えて、指先が感覚をなくしたように冷たかった。
じり、と後ずさると、王子はぼんやりとジバルを見た。
「なんで、僕を殺さなかった」