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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
それは出会った時に見た、感情を何一つ見せない完璧な表情で、暗がり、姿形は変わっても確かに彼は王子だったのだと改めて感じた。
(何故咎められている?)
ジバルは王子を守ったのに。
(殺されたかったのか?)
次々と湧いてくる疑問や戸惑いはどれも言葉に成らず、ジバルははあっと口を開くだけだった。しかし次の瞬間には、王子は立ち上がって泥だらけの手を叩いた。
「今日、僕は自殺した。その悲しみを女神像にぶつけた王は呪いに見舞われ、醜い体になった。僕は姿を消す。お前が王だ」
「無理です」
ようやく出た言葉はカサカサと擦れ、震えていた。
「城の奥に引きこもればいい。今までお前を知っている奴ら全員を追放してもいい。王は呪いをかけられて乱心しているからな。多少の事はありえる」
「無理です」
「問題は政治か。それはまあ、こんな有様の僕の知ったことではないな」
「王子! 貴方はどうするのです!」
初めて誰かに声を荒げた。その相手が王子であるとは想像もしていなかった。王子はそこで初めてジバルを見た。
「誰かに愛されるまで、この姿のままなんだろう」
その目が、ようやく悲しみを宿した。嘲笑を浮かべた彼は、紛れもなく人間で、紛れもなく傷ついたジバルの主君だった。見た目すら違うが紛れもない王子に、ジバルは自然と跪いた。
「我が王子……オレは、貴方に忠誠を誓った。城下町で助けてくださったあの時から、オレは、貴方だけの僕なのです。どうか置いていかないでください。ひとりにしないでください。貴方が望むのなら、オレは心から貴方を愛することができるでしょう。貴方を恐れる者全てを斬ったっていい。だからどうか、ここからいなくならないでください」
心から懇願した。嘘偽りなく、この主君に身を捧げたいと思った。王でいて欲しいと思った。
ジバルが愛することで、彼の呪いが解けるならジバルは幾らでも彼を愛することができると思った。なぜならジバルは初めてあったあの瞬間から、王子の美しさに心を奪われ、気高さに陶酔し、今では彼そのものに深く愛情を抱いているからだ。
実の父親でさえ殺そうとした彼を救えるのは、もはやこの世界中にジバルだけではないかと思えるほどに、彼を深く深く愛しているのだから。