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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
時折、ジバルはハイネが実際の王であると高らかに宣言してしまいたい衝動に駆られた。この鬱屈とした城の中で、王子だけがたった一人で楽しみ、苦しみ、嘆いている。
他の者に知らしめても、理解を得られるのではないか。ジバルが王を殺したと姿を晒し、糾弾されてもそれで彼の存在を周りが認めるならジバルはどうなってもいいと思える時があった。けれど彼はそれを許さなかった。
「お前なんかが、僕のやることに口を出すな」
その話をすると、王子はそう言って神経質に唇をなぞり、近くのものを壁に投げつけた。
そんな反応を見るたびに、ジバルは内心安心するのだ。まだ彼は王族の誇りを持っている。平民とは違う、自分の気持ちなど平民は知らなくてもいい、分かち合う気もない、分かってほしくもない、ただ一人の国王なのだとその小さな全身が語る。
その姿にジバルは密かな満足感で満たされる。この薄寒い一人きりの玉座すら、彼の用意したままごとの役割なのだと思えば地球上にあるどんな椅子よりも価値があるのだ。
それは王座だからじゃない。彼が用意したジバルだけの椅子だからだ。
バカな女たちなんかどうでもいい。ジバルに恐れ泣き叫ぼうと、ジバルの心は少しも揺るがない。一人一人と逃げ帰り、いつか誰もいなくなったその時には、ジバルこそが王子の唯一無二の理解者であると知らしめたい。またその美しい顔をジバルに向けてくれるのならば、ジバルは幾らでもこのゲームに付き合おうと思っていた。
(――ああ、なのに)
ある姫が来た。
貧しい国で贅沢三昧の娘。昔に一度――今思えば婚約者を決めるためだったんだろうか、王子に謁見したことがあったけれど、近くで世話をするジバルを目に入れるのも不快だと全身で語っていた。
もう随分と昔だが、およそ二十年ぶりに再び会った第一声はその時の反応とまったく反対のものだった。
「きれい……」
一瞬、その言葉に王子に出会った時のことが頭を過ぎった。
ああ、この娘は、またここで贅沢をするためにオレに取り入ろうとしている。そう思うことにした。