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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
(――なのに)
けれど彼女は姫ではなかった。自分と同じ、ニセモノの地位。その時ようやく、世界の色を認識出来た気がした。
彼女と接する度、彼女が笑う度、世界が輝いて見えた。
心が震えるたび、このままでは駄目だと思った。なぜなら自分はハイネの引き立て役のためにこの玉座に座っているし、彼に全てを捧げるために今まで生きてきたはずだから。
そしておそらくは自分と同じように、王子にも変化があった。
彼女に触れるたびに今まで張り詰めていた何かがだんだん緩んでいく。表面を覆っていた氷が解けるように、王子はまた昔のような柔らかな笑顔を取り戻していくのが見て取れた。
だからこそ、なのだろうか。
何度でも彼女の熱い視線を受け流し、気づかないふりをした。
その潤んだ瞳で「王様」と呼ばれるたびに胸が痛かった。
なぜなら、自分は王ではないから。彼女に愛される資格なんて本当はないから。
彼女の目の奥にある熱が「王様」である自分に向いているのなら、それはきっと本当はどこにも存在しない人物だ。
だから、ハイネが自分のことを告白した時、驚きよりもほっとした方が強かった。
そして同じく、国に帰ると思われた彼女が残ると言い出したときは、それ以上に安堵した。
「お前の呪いは、解いてくれるかもね」
王子に言われたその時に、初めて気づいた。
彼はジバルが自分の言うことを黙って聞いているのは、国王を殺した罪悪感からだと思い込んでいる。
その事実に驚愕した。だから全身で忠誠を示したけれど、王子はどこかうわの空だった。
初めて彼女に触れて、思いが抑えきれないことを知った。
手放したくないと思った。王子とは別の次元で、同じように彼女を守りたいと思った。
王子ひとりさえ守れていないのに、それでも、触れた小さな手を握っていたかった。