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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
祭典前夜、彼女はジバルに「信じてください」とだけ語った。
何も聞かなかった。聞けなかった。なぜならジバルにとってハイネは絶対的な存在で、彼の命令を無視することは出来なかった。そして同じく、彼女のやることを止めることも、ほんの僅かな「もしかしたら」を思うと出来なかった。もし王子を助けるなら間違いなく今しかない。恨まれるかもしれない。失敗するかもしれない。
それでも、この十年のことを思えば、彼女という存在を逃したら次のチャンスはいつになるか分からない。だから、了承した。
(――なのに)
彼女が王子を説得する姿を町中のプロジェクターで流している頃、ジバルは黒城を歩いていた。
彼女を止められない。けれど、協力も出来ない。なぜなら自分がそのカメラに収まるわけにはいかないからだ。彼女自身がそれを強く希望したからだ。
「もし失敗した時、ジバル様まで協力していると知ったら、そのあとでハイネはひとりぼっちになっちゃうわ」
彼女一人を悪者にするしかないこの時間が嫌だった。けれど、長年そばで世話をしてきたジバルはハイネにとって間違いなく「召使い」で、ジバルの前で本音を語るとも思えない。
姫であり、メイド。もしくはそのどちらでもない彼女こそが、ハイネにとっての唯一イレギュラーな存在だった。
もし語ってくれるなら、彼女と二人でなければきっと駄目なんだろう。
薄暗い廊下を歩くジバルは無力感にとらわれていた。二人ともを大切に思っている。それなのに、その二人のために出来ることはほんの僅かだ。
「……、」