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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり

食べ終わった食器の片づけかとドアを急いで開けると、ガツンッと音がして本来の三分の一くらいのところで止まる。

嫌な感触に恐る恐る顔を上げると、さっき目を奪われた緑の目が半分だけが見えて、二本足で立ったクマのようにズンとドアの前に立っていた。というか、私の開けたドアに額を打っていた。

サーッと血の気が失せていくのを感じて、咄嗟に手を離して後ずさる。


「す、すすすすみません! ほ、本当に、どう、どうしたら……!!」


パニックになりながら涙目で周りを見渡すと、夕食についてきたワインクーラーを見つけた。
急いでそこから氷を掴んでナプキンにを入れて包み振り返ると、王様はその場から一ミリも動いていなかった。その太い手首を掴む。


「っ」
「すみません、こちらにどうぞ!」


触れた一瞬、拒むような緊張するような雰囲気を感じ取ったけれど、それより冷やさねばという気持ちが勝って、ぐいぐい引っ張っり、まだ食事したままの皿が散らばる机の前の二人がけソファーに座らせた。

部屋の明かりで見ても、黒い髪がほとんど邪魔をしてその顔は見えない。
ぶつけた部分を確認しようとその前髪に手を触れると、ぐっと強い力で掴まれた。


「さわるな」


低く、唸るような声。

さっき会った時は部屋の雰囲気に圧され気づかなかったが、王様の声は威嚇する野獣のように、荒々しく豪雨のような声だった。


「ご、ごめんなさい……でも、あの、冷やさないと」


その目が続きを言うことを許さないように鋭く睨みつけるので、まるで視線で首を絞められたように言葉を失う。同時に王様を怒らせてしまったことに胸が震え、緊張がまた指先から体温を奪っていくのを感じた。対する王様は不快なものでも見るようにジロジロを私に視線を送り続ける。


(王様がこんな夜に、何の用かしら……)


そこまで考えて、またはっとした。
結婚相手なのだ。まだ結婚の誓いやらはやっていないけれど、私はこの人の妻になるつもりで、だから、夜来るってことは当然……。

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