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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
斬られる衝撃に目を瞑っていると、背後で肉を切る耳障りな音がした。
痛みはなくて、けれど私の腕の中に収まりきらないハイネが息をのむのが聞こえた。
「ジ……バ、ル……」
その言葉にはっと振り返ると、突然現れた剣を振り回す男と私たちの間に立ちはだかる壁があった。
黒いマント、黒い髪、大きな体が、ゆっくりと崩れる。
「ジバル様!」
斬られたのは私じゃなかった。ハイネでもなかった。
誰より愛しい騎士だった。
「アメリア様……?」
倒れたジバル様に取りすがる私の耳に、聞き覚えのある声が響いた。ゆっくりと顔を上げると、暴漢の顔に見覚えがあった。
無精髭が生え、前に見た時よりやつれた様子だが、間違いなくルバルドの騎士がそこにはいた。
「ユー、リ……? どうして……」
どうしてここに居るんだろう。どうしてジバル様を切ったんだろう。あらゆる疑問が降っては消え、私の手をジバル様が弱々しく握ってはっとする。
「王子を、守ってくれ……まだ、君の、助けが……必要だから」
「ジ、バル……さま」
震えるその手がぬるりとした。おそるおそる彼の体に目をやると、マントの下は赤黒く染まっていた。あちこちからドクドクと血が噴きだし、彼の鼓動を伝える。
「姫様、助けに来ました……」
「ッ……ユーリ……」
「私と共に、国に帰りま――ッ!!」
ユーリの焦点の合ってない目で語る言葉は途切れた。ハイネが殴りかかり、その力強い体が一撃で壁まで吹っ飛んだからだ。
ハイネはどこかまだ放心したように、ぼんやりとジバル様の元に膝を折る。
「おい」
「ハイネ、様……お逃げください」
「僕に指図するな」
ハイネの言葉に、ジバル様は口元だけで笑った。
「お前、バカだな。父上のことで逆らえないからって、命を欠けることないだろ」
「ハイネ……」
つい口を出すと、ジバル様が私の手を引き、その目を柔らかに細めた。