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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「アメリア姫を手に入れるために、醜い王様を殺したらって言ったら本気にしちゃってね。まあおかげで俺もここまで入ってこれたからいいんだけれど、上手くいかないものだね。相打ちか、あわよくばどちらかでも死ねばいいと思っていたのに、このザマだよ」
「なに、言っているの?」
彼が言葉を紡ぐたび、神経が凍り付いていくように固まっていく。じわりと嫌な汗が背中を伝った。
「じゃあ、これは……兄さんが仕組んだの?」
「大切な妹を取り戻すためじゃないか。嬉しいかい?」
無意識にジバル様の手をぎゅっと握ったのは嬉しかったからじゃない。怖かったからだ。その手は驚くほど冷たい。焦りが募って、同じくらいふつふつと怒りが湧き始めた。
「なんで……」
「ん? なんだい?」
「なんで! なんで殺そうとなんてしたの!?」
「お前が囚われているからだよ」
「囚われてなんかない! もうずっと前から、私は自分の意思でここにいるの!」
「違う!」
絶叫するようにして、兄さんは首を振った。
「お前は騙されてるんだ。その生き物に同情してるんだろう? お前は優しいもんな。でも俺と一緒に帰ろう。そしたらまたいつものミアに戻れる」
いつものミア。
兄さんの言うそれは、ぼんやりとただ毎日を過ごしていた日々だ。なんとなく生きて、食べ物があるだけで幸せな日々だ。
それも一つの幸せだ。けれどもう、私は別の幸せを知ってしまった。傷口をマントで押さえつけるハイネと、青白い顔で不安げに私を見つめる緑の瞳を見る。
「違うわ。私はもうあの時には戻れない。戻りたくない。だって……二人が、大事なのよ」
声がかすれた。涙が溢れて止められない。
私のせいでジバル様が傷ついた。荒療治と思ってハイネにしたことも結局、ハイネを傷つけた。
国民に受け入れられなかったら、ハイネはあの絵本の王様みたいに一人ぼっちになるだろう。その時のためにジバル様を関わらせなかったのに、彼は今死にかけてる。