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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと

「誰か……助けて……ジバル様を、助けて。お願い……」


良かれと思ってしたことが、全て逆の結果を生んで今ここに至る。

カメラがあるのに、助けはこない。
倒れたせいで壊れたのだろうか、それともハイネの醜い姿に皆、本当に背を向けてしまったんだろうか。


「なんで……なんで助けてくれないの……ジバル様も、ハイネも、国を良くしたんじゃなかったの……感謝してるって言ってたじゃない……なんで誰もハイネのこと気づかないの……閉じ込められた子供を、なんで誰も愛してあげないの!」


平民だから、召使いだから、関係ないから、
きっと理由はたくさんあって、でもそのどれもが彼を傷つけた。

私にはハイネを救えない。けれど、彼が皆に否定されていいわけじゃない。

私は色んなことが一気に起こって、頭の中はごちゃごちゃだ。

怒りがこみ上げて仕方なかった。
ユーリを操った兄に対して、ジバル様を傷つけたユーリに対して、ハイネを大事に思うジバル様に対して、そして全てを隠そうとしたハイネに対して、ハイネを見ようとしなかった国民に対して。

けれど、一番怒りを感じるのは自分自身。


「どうして……あなたたちを救えないの……」


ぱたた、と音を立てて涙がまた、ジバル様のシャツにシミを作る。


「ミア、ねえ、どうして泣くの? 俺といた時は泣くことなんかほとんどなかっただろう? 俺と一緒にいたらもう泣かないですむんだよ。ほら、おいで?」


どこか熱に浮かされたように語る兄を見た。ぱらぱらと溢れる涙の意味も、私の気持ちも、今の兄さんには関係ないことなんだろう。だから、口を開いた。


「兄さん……私が、今まであまり泣かなかったのは大切なものがなかったからよ。今は違うの。死んでほしくない人がいるの」


兄さんはそれでも首を傾げて、早くおいでとばかりに両手を広げる。その存在が恐ろしかった。

私が黙ってここに来たせいで、兄さんはこんなに心を歪ませてしまったんだろうか。

動き出せずにいるとジバル様を握った震える手を、あたたかで大きな手が包む。


「お前のせいじゃない」

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