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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「ハイネ……様」
「アレはもともと狂ってる。お前のせいじゃない」
彼はそれだけ言うと、ゆっくりジバル様を抱きかかえた。そして倒れたカメラを見る。
「僕が、現在バーチェスを統べる国王、ベルハイム・ブルクスアイ四世だ。……僕の目が行き届かず不満の声もあるだろう。今まで隠していて……すまなかった。抗議は後でいくらでも聞こう。今は、失礼する」
最初から最後まで王子然として語ると、カメラを後にした。その歩みは兄さんの隣を抜け、ユーリを素通りする。
呆然とその後ろ姿を見つめていると突然、兄さんがユーリの落とした剣を拾った。
「ああ、そっか……この二人が邪魔なんだ!」
「ハイネ!!!」
私の絶叫を合図に、ハイネの背中に向かって、剣が突き刺さる。
「ぐっ、ぅ」
背中から腹に向かい、貫通する先にはジバル様がいる。切っ先がハイネの体から出る瞬間、彼は体を捩って小柄な体型の兄さんに回し蹴りを食らわした。まるで棒切れのように吹っ飛ぶ。ハイネはそのままフラついて、その場に膝をついた。
「ふ、うっ……」
「ハイネ!!」
「いいから、人、呼んできて……僕はともかく、こいつなら診てもらえるでしょ」
背中に手を回して、自分の手が傷つくのも構わずにそのまま諸刃を掴んで背中から引き抜く。鮮血がドロドロと流れ出る様に、サアっとこっちの血の気が引いていく。
「……う、ぁ…… ほら、早く、呼びに行けって」
「あ、う……」
その夥しい量の床を染めていく血液に私の足はガクガクと震えて動けない。ハイネは苦しげにそのままその場に腰を下ろすと、足の上にジバル様の体を抱いた。
「ほら、早く……お前の王様、助けてやれ」
「あ……」
どくどくと流れ出る血が、全て私の兄によってもたらされた。その事実が彼に近づくことさえ許されない気がして立ち尽くしてしまう。
ハイネは私を見ると、苦しそうな笑うような複雑な表情をした。
「僕は……死にたいんだよ。でも、こいつは違うから……助けてやれ」