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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
「……っ、」
その言葉を聞いた途端、私は走り出していた。白城まで行けば誰かしらはいるだろう。いなくても、街まで走れば医者がいるだろう。
喉が苦しい。胸が痛い。自分の口から喘ぐように出る息が耳に届いて焦燥感が増していく。
(死なせたりしないわ……ハイネも、ジバル様も……!)
失いそうな恐怖に、もつれそうになる足をひたすら動かして、白城に続く廊下に出る。
「ハイネ様!」
その時突然、声がした。今まさに黒城に辿り着いたばかりで手近な部屋を開け、キョロキョロしているのはよく話したメイドの一人だ。両手いっぱいに洗いたてのシーツを抱えている。
「あ! アンタ! ハイネ様のところまで案内しな!」
「はっはい!」
彼女の後ろにも数人が走ってくるのが見えて、私は転びそうになりながら方向を百八十度変えて元の謁見の間に向かう。
彼女は動けなくなったジバル様とハイネ様を見て焦ったように廊下に向かって叫んだ。
「あら、あらあらあら! アンタたち! ほらもっと急いで!! ハイネ様、もうすぐ来ますからね!」
「……あ、」
突然の登場にハイネもぽかんとして彼女を見ていると、その奥から次々に見慣れたメイドや召使いたちが集まってきた。布を持っていたり包帯を抱えたりして、ジバル様とハイネを囲んでいく。
「ほら、お医者さん来ましたよ! 道あけておやり!」
「ほらアンタ何やってんだい! この人死なせたらタダじゃおかないよ!」
「ハイネ様もほら、傷の具合見ますからね」
「僕は、あとで……」
「王様が何言ってんだい! どうなの? 深いのかい?」
「暗いし血が足らん! 白城まで急いで運ぶぞ! みんな手伝ってくれ!」
ジバル様を男たちが抱えようとするけれど、その体は大きく容易なことじゃない。ハイネは布で背中を押さえつけられたまま、立ち上がった。その姿に、みんなは一瞬目を見開く。
「僕が、運ぶ」
「ハイネ様も血が出てるじゃないですか」
「急ぐんでしょ……このくらい、平気だ……そこの奴らも、頼む」