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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと
ジバル様の傷は深そうだからまだしばらくは目覚めないだろう。兄さんとユーリは、命の心配はないらしく、客間に運ばれて治療を受けているようだ。
そろそろ夜が明ける。漆黒からほんのり紺に染まり始めた窓辺に寄りかかる。静かな空間で、二人の呼吸だけが響いた。
「……、」
「ハイネ!」
その青い瞳がゆっくりと開く。
すぐに駆け寄って、その変化が気のせいではないか確認した。彼は目だけを動かして私を見つけた。
「…ふ、マヌケな顔…っ」
「傷が開きます! 動いちゃダメですよ!」
「お前の言うことなんか……、聞かないし」
いつもの調子に戻ったように、身をよじる。が、やはり痛むのか顔をしかめて動くのをやめた。
(よかった……)
もしかしたら目を開けないかもしれないと思った。とりあえずハイネだけでも先に目を覚ましたことに、安堵のため息と共に視界が滲む。
「う、うう……」
「ちょっと、ここで泣かないでよ……泣きたいのはこっちなんだけど」
「ですよね。ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい」
兄さんが刺して、ユーリが斬って、そのどちらにも責任を感じて顔があげられなかった。次々に涙が溢れて、そうしていたら、大きな指が髪を一房、控えめにつんと握られる。
「……別に、お前のせいじゃない。僕が今までやってきたことのしっぺ返しを、食らっただけだ」
醜い姿はもう随分前から怖くなかった。その青い眼が、戸惑ったように揺れる。
「……、ミア? ハイネ、さま」
また微かな別の声が響いた。聞きなれた優しく低い声。
私はすぐに彼の元に駆け寄って、大きな手を握った。熱を取り戻した彼の腕には管が刺さり、包帯を巻かれて痛々しい。
「目覚めたんですね!」
「心配、かけた」
薄暗い黒城を抜けて、明るい医務室に運ばれてきた時は血の気が失せていつ死んでもおかしくない様子だった。
何時間も部屋の外で待って、ようやく入室を許されたのはついさっきだ。人がひっきりなしに出入りするから緊張感が募るばかりで、生きた心地がしなかった。
「お嬢ちゃん、入るよ……まあ」