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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第7章 エピローグ
「ハイネ!」
「ハイネ様だろ」
執事の服ではなく、白を基調にした煌びやかな礼服に身を包んだ主君が立っていた。私の奥で騎士の服を着るのに焦るジバル様の姿を見ると顔をしかめた。
「お前ら……精子くさいな」
「うっ!?」
急いで自分の腕を嗅いでも分からない。焦ってジバル様を見ると、彼は困った様子で笑顔を浮かべるだけだった。
「僕の戴冠式にまさか遅れたりしないだろうと来てみれば……随分余裕じゃないか」
「お、遅れません!」
「もう開始三十分前のラッパが鳴ったの、聞いてなかったの?」
ハイネは私の後ろに回り、歪んでいたのかエプロンのリボンを結び直してからジバル様の元に向かう。
手には細く豪奢な飾りのついた剣を持っている。
「ハイネ様?」
「これ、お前が使え」
彼は両手で受け取る。鞘と柄にはバーチェスの紋章が彫られていて、ジバル様は狼狽えながらハイネを見る。
「これは……!」
「それなんですか?」
「戴冠式に使う、騎士が掲げる剣だよ。忠誠を誓うために使うけど、コイツのは大剣だから他の者の迷惑になるでしょ。だからあげるの」
国の紋章が入っているのとその華美な装飾からして、おそらく実戦より式典や観賞用なんだろう。ジバル様はそれを握ると膝を折ってその場で頭を垂れた。
「ありがたく賜ります」
「はいはい。早く用意してよね。僕の側近が僕の晴れ舞台に遅れるなんて許されないよ……ついでにお前もね」