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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第1章 プロローグ
息苦しい。
両手は頭上のベッドの柵にくくりつけられ、目隠しをされ、唯一許された自由は息をすることくらいなんだろうに、それさえ阻まれている気がする。
今まで触れたことのない上質なシルクの感触に足を滑らせながら、柔らかに沈むベッドに横たわった自分は、まるで肉食獣の檻に投げこまれた生肉みたいだと思った。
「……」
ふと、自分とは違う距離から布擦れの音がした。
何者かが部屋に入ってきたのだ。
――否、相手はわかっている。
自分の鼓動が耳元でうるさくなって、その存在の放つ微かな音を聞き逃してしまう。
「――ぁ」
足に触れた。
その指は熱く、ゆっくりと私の着ているナイトドレスの合間を縫って太ももの内側へと向かう。同時に熱い息を感じて、無意識に体が強張った。
「ど、どうか、お願いします」
その震える喉で懇願を口にした。
腿の柔らかさを楽しむようにやわやわと触れていた指が止まる。
「これらを、外していただけませんか……どうか、」
がちゃりと両手の拘束具がなった。
しかし私の言葉など聞こえていないように、無慈悲に両足を割り開かれる。その羞恥につい足を閉じようとしても、力強い両手がそれを許さず、ぐっと体が割り込んでくるのを感じた。
ああ、こうして私の初めては散らされてしまうのかと思うと自然と涙が溢れる。
誰かに恋したわけじゃない。
何かを夢見たわけじゃない。
けれど、自分の初めてはせめて、好きになった人にあげたかった。
けれどそう思う反面、自分で決めた事じゃないかと納得して受け入れている私も存在する。
まさか、好きな相手でもなければ今日会ったばかりで、しかも拘束されて目隠しまでされるなんて思ってもみなかったけれど。
視界が遮断されることで起こる不安感か、これから起こることへの恐怖か。鼓動はいよいよハチドリのようにこめかみを圧迫しはじめ、せめて見えない恐怖だけでもなくしてしまいたいと願う。なぜなら、彼はこの部屋に来てからというもの、一度たりとも言葉を発さないからだ。相手が不確定なこの状況がまた新しい不安を生み出すのだ。
静かに時折聞こえる布擦れの音。彼の存在はそれだけだった。