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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
――親愛なるミア
まず、お前にこんなことをさせることになった不甲斐ない兄を許しておくれ。
お前のことだから俺を心配させまいとあんな手紙を書いたのだろうけど、俺はミアがその身を犠牲にしてまで生きたいとは思わない。分かっているね。お前の枷になってしまったことを心から悔いている。けれど、もう今更だろうな。
悪名高い国はどうだろう。お前が辛い思いをしていないといいんだが。
ミアはどんな時でも周りを明るくさせるから、その光が心を病んだ王様にも届くといいと思っている。お前の前向きな姿に俺はいつも励まされていたからね。
無理をしないで、泣くほど辛いなら逃げてしまえばいい。俺はどうにでもなるし、一緒に逃げたっていい。こんなことを書いたら怒られてしまうかな。
お前の人生は兄に捧げるためのものじゃない。それだけは覚えていておくれ。
それでは体に気をつけて。もし許されるなら、もう一度会えることを願って。 フリンより――
「ふ、ぐ……ッ」
読み終わる頃には涙が止まらなかった。
その手紙を強く胸に抱いて、嗚咽を上げそうになる口元を覆った。
兄さんに会いたかった。
いつも泣いてる時にしてくれたように、優しかったその両手で抱き締めて、大丈夫だよと言ってほしかった。
今までで一番豪華な暮らしと物に囲まれているはずなのに、私は家にいる時よりもずっと一人ぼっちだった。
けれど反面、嬉しかった。
約束通り、国王様は兄を治療してくれている。私が兄の助けになっているんだという事実がまた誇らしくもあった。
だから涙を拭いて、覚えるように何度も読み返すと、この手紙を誰にも見られないように荷物の奥深くに隠した。
「……よし」
ジンと重く腫れた瞼とは裏腹に泣いてすっきりしたのか、もうぼんやりとした気分は消えていた。もしかしたら兄の手紙に励まされたのかもしれない。
ろくに食事ととらずに部屋に引きこもっていると兄さんが知ったら悲しむだろう。そして、きっとミアらしくないと言うかもしれない。
気持ちを切り替えて、今日は全然見れなかった白城の方に足を運ばせてみようかと思う。発展ている国の街並みも見てみたい。せっかくお姫様という立場を得たんだから、部屋にばかりいてはもったいないじゃないか。そう考えると心がウキウキしてきた。