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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
それ以降のページは破かれている。
最後のページに描かれているのは、月夜を背景に神々しい光を放つ女神と、その光を怯えるように顔を両手で覆い、身をかがめる大きな獣だった。
その姿がどこか、アヴァロ王に似ていることにドキリとする。
「これって……」
「こんなところにいたんですか」
突然の声に驚いて顔を上げると、本棚の間から顔を覗かせる透き通った青い瞳と目があった。
「ハイネ」
「もう、どこか行くなら僕が案内しますよ。まだ姫様はお部屋の場所覚えてないでしょ?」
「うん、ごめん。ハイネの仕事の邪魔したくなくて」
「ふふ。……それは、」
わざと拗ねたような言い方をしながらそばに来たハイネは、私の手に持った絵本に一瞬ぴくりと反応する。
「あ、ごめんなさい。見ちゃいけないものだった?」
「いいえ。古いものだし、面白くないでしょう? それより行きましょう。そろそろお昼ですよ」
彼はさっと絵本を手に取ると、無造作に机の上に放り投げた。
今まで徹底して礼儀正しく丁寧だったハイネが、王様の本をそんな風に扱うなんて少しおやと思ったけれど、何かを言う前にハイネに背中を押されてグイグイ外に出されてしまった。
それに内心、少しお腹がすいてきていたのでお昼という言葉に興味が移ったのも否めない。
「あっ、ねぇハイネ。お昼は、王様といただいてはいけないかしら」
「え? なんでです?」
「これから夫婦になるんだし、仲良くなる努力はしようと思って」
「ふうん……。聞いてみましょう」
咄嗟に思いついたことだったが、悪くないかもしれない。
あの絵本のことが真実かどうかはわからなくても、王様は確かにいるのだし、私はそのお妃様になるわけで、それならやはり仲良くなるに越したことはない。
政略結婚だからってイヤイヤ毎日を送るより、少しでも相手を知って好きになれたほうがいいじゃないか。
――何より、仲良くなれば目隠しや手枷をしなくなるかもしれないし、あんな暴力的な行為も抑えられるかもしれないという期待も、ないわけではない。
そんな前向きな気持ちになるのは久しぶりで、心の中で兄さんに感謝した。