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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「わあ……!」
目の前に広がる光景に、私は思わず感嘆の声を上げた。
思いつきで王様に昼食を誘ってみたけれど、どうせなら外に出てみようと思ったのだ。
ハイネに城の中庭にある東屋まで案内してもらったけれど、そこには今まで見たことのない色とりどりの花たちが息づく可憐な花畑だった。
「すごく綺麗…!」
「ふふ、気に入っていただけて良かったです。ここの花はみんな僕が育ててるんですよ」
ハイネが少し得意げに胸を張る。
それも頷けるくらい大きく見事に開花した花々を見ていると、ふいに影がさした。
「あっ」
「……」
見ると日の光の下でもそこだけは夜闇を率いているような真っ黒のマントに体をほとんど隠した男がいた。今日もまた黒く長い髪が一段と顔のほとんどを覆った王様が、いつも以上に表情の読めない顔で壁のようにずんと立っている。
自分から誘ったとはいえ、やはり毎夜乱暴に扱う張本人を前にすると緊張が走り、手にジワッと汗が沸くのを感じた。
「き、急なお誘い、お受けくださりありがとうございます」
急いでお辞儀をする。けれど、彼の意識は私よりハイネに注がれているようだった。
「さあさあ、お二人とも。こちらにご用意しましたから、心ゆくまでお楽しみくださいね」
白く上品な東屋の中には、優雅な模様を細かく透かし彫りしたテーブルと椅子。そこにまるでピクニックにきたような軽食が並ぶ。――とはいえ、サンドウィッチに挟んだ具材は未だに何の肉か判断できないし、デザートのフルーツは見たことない形状で、はちきれそうな瑞々しさがいかにも高級な香りを醸しだしているけれど。
「……」
王様は何も言わずに腰掛け、私も急いでそれに続く。
初めてテーブルを囲んでいるというのに、私の緊張などお構いなしにガツガツと食べ始める王様に、内心焦り始める。何か話しかけなければ。
「あっあの! 昨日は、よく眠れました……か」
何聞いてるんだろう。口にしてすぐに後悔する。
王様はこちらに視線を向けているのが分かるが、表情は見えない。いたたまれなくなって、兄さんの手紙に励まされたはずなのに、もうこんなことなら部屋で一人で過ごしてたほうがマシだったかもしれないと早くも思い始める。
「……ああ」
「あの、これ、お、美味しいですね。なんのお肉なのかしら」
「……牛だ」