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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
返事をしてくれないわけじゃない。けれど今にも会話終了してしまいそうな雰囲気で、自分の鼓動の速さを隠すように矢継ぎ早に質問するけれど、それも空回ってより一層焦るだけだった。
頭の中に真っ白で、本当は何を口にしても味がわからない。
「あぁあの……、は、ハイネさんは、お若いのにすごい方ですね」
「……」
その時、初めて王様の手が止まった。
おずおずと視線を上げると、彼はぼんやりと手元を見ている。
あまり考えもなしに口にしていたけれど、何か言ってはいけないことを口走ったのかと不安に思い始めた時、ようやく王様は小さなため息をついた。
「すごい。そうだな」
(笑った?)
一瞬、ほとんどヒゲに隠れた口角が上がったように見えた。彼にとってもハイネは自慢の家臣なんだろう。
その表情の変化に少しほっと息を吐くと、その目がこちらに向けられる。
「オレは……、あまり話すのが得意じゃない」
「は、はい」
考えながら話し始めたのを感じて、私も王様をじっと見つめる。
食べてる最中に少し髪が払われて、さっきよりもその目が見えた。
不安げに、迷うように揺れる。最近こんな目を自分もしていた。――初日に、姿見の中で見たお姫様だ。
だからそっと、その手に触れた。
焦らなくても大丈夫だと伝えたくて、けれどそれはすぐに払われてしまう。
「ッ!」
「っあ……、ご、ごめんなさいっ私……」
「違うんだ、その……」
ジンとする手のひらを引っ込めた。
恥ずかしくて、辛くて、部屋に逃げ帰ってしまいたい。けれど彼は王様だから、私が先に席を立ったら気を悪くするかもしれない。それがまた怖くて動けない。
「……すまない」
うつむく私に、王様は小さな声でそれだけ呟いて席を離れていってしまった。
聞こえる足音が遠ざかるのを聞きながら、私は少し涙を流した。