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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
***
「はい、ではお預かりします」
「お願いします」
書いたばかりの手紙を預け、使いの者の乗った馬が木々の合間に見えなくなるのを、裏門の柱に身を預けながらぼんやりと眺めた。
結局あの後に王様が戻ることはなく、私は一人でランチを済ませた。
払われた手を見る。
怪我をしたわけでもないのに、あのシーンが蘇るとまだ少し疼くように痛んだ。その指先を握る。
「……余計なことだったかな」
「何がです?」
「っハイネ!」
後ろから急に声がして驚く。振り返ると顔を覗き込むようにして笑うハイネがいた。昼は早々からガーデンテラスから姿を消していたのだ。
あの場にいてもらえば頼もしかっただろうと一瞬恨めしく思ってしまうが、彼は使用人で私は姫、そして同席するのは王様だ。きっと普通では許されない空間なのだろう。
「ふふ、元気ないですね。お帰りのご連絡ですか?」
彼の言うことが一瞬分からなかったけれど、ハイネの視線が門の外に送られてようやく「お帰り」が自国に戻ることを指しているんだと気づいた。
「違うわ! その……、今朝貰った手紙の返事を書いたの」
王様との現状を伝えようかと悩んだけれど、兄さんには心配かけられない。だから、結局当たり障りのないことを書くしかなかった。元気で、楽しくやっている。なんて、実際のところを知っていたら馬鹿みたいだ。
「ふうん。もしかして、大切な方でもお国にいらっしゃいましたか?」
「え?」
「隠さなくても、珍しい事じゃないですよ。それに、僕は王様には言いませんよ?」
ハイネは口元に人差し指を当てて内緒で、と悪戯っぽく笑った。
「そんな人……いないわ」
「そうですか? 手紙が来たときあんなに喜んでらしたのに」
「喜んで……」
気づかなかった。確かに早く開けたかったけれど、兄の存在がバレるのをおそれて必死で平常を心がけたつもりだったのだが、やはり私は嘘がつけるようには出来ていないのかもしれない。
「あれは、家族からだから」
「家族ね」
その返事に、何か含みをもたせた響きを感じてハイネを見る。彼は意地悪そうに笑った。
「なあに?」
「いえ。あなたの家族はあなたをこの国に売り払ったも同然なのに、それでも大切になさるんですね」
「……それは……」