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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「……ねえ、姫様」
「うん?」
「何があっても、僕がついてますからね」
ハイネは私の手を取り、天使のように笑った。
王様に払われた手を優しく握る小さな手が嬉しくて、それだけで、まだまだきっと頑張れると思えた。
「ありがとう、ハイネ」
そして夜の帳が下りる。
いつもの時間に姿を現した王様は、まだどこか昼の気まずさを抱えているようだった。
当然、それは私も同じなのだけれど。
「あ、あの、昼は……、」
「すまなかった」
「いえ、それは、私が……。あの!」
私は王様について行くようにして自室の寝室に進み、自分からベッドの上に座り込む。放り投げられるのはごめんだ。王様はチェストから道具を取り出していた。
本当は抱かれるよりも話をしたかった。もっと、失敗しても話を続けてみたかった。
だから道具を手にする彼を見ると、目隠しや手枷をされてしまう前に何か声をかけなければと、また急に焦りが湧いて口を開く。
「あの! 呪いは、本当ですか?」
ピタリと止まる。
よりにもよって一番聞いてはいけなそうなところを口にしてしまった。自分の馬鹿さ加減に呆れたり焦ったりして、思わず口を塞ぐ。
王様は数秒、静かに呼吸を繰り返してから、その手に持ったものをベッドの上に置いて、ほとんど睨むような目で私を見た。
まるで猛獣。
息をするのも許されないようなその獰猛な目に、私はヘビに睨まれたカエルのように嫌な汗を背中に感じながら固まった。
そのヒゲなのか、髪なのかわからないところが動いて、暗い洞窟から声が発せられる。
「……呪いだとして、嘘だとして、どちらでも構わん。どうせお前は逃げ出すだろう」
そうしてその目が、嘲るように笑うのを見た。
理解できなかった。
まるで最初から姫が逃げることを理解しているようで、どこかそのことを諦めているようだ。そして、まるで私にも逃げてほしいような言い方をする。
呪いなら、あの話が本当なら、愛し愛されなければ解けないのではないのか。
それとももう、それら全てを諦めているのだろうか。
最初から私の意思や決意など関係なく、彼は私と親しくするつもりなどなかったのだ。私はもうすでに彼のために犠牲を伴っているのに。
そう思えば怒りがメラメラと腹の底から火山のように湧き上がり、気づけば身を前に乗り出していた。