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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「逃げ出しません。私は、逃げ出したりしません」
人生で兄以外の人間に向けたことのない、喧嘩腰ともいえる強い口調で言い放っていた。
それもコンマ数秒のことで、すぐに我に返って一気に血の気が引いてしまうのだけれど。
(私、王様相手に何言ってるの……!)
アワアワする私を、王様はもう怒ってはいなかった。今まで見たことない新種の生き物でも見るように、奇妙なものを見る目で首を傾げていた。
「……変な女だな……お前」
「あ、ぅ」
「姫らしくない」
「っ!」
その言葉に心臓を直に握られたような気分になる。
(……バレた? )
ヒク、と喉を締められたような感覚に全身がこわばる。
王様の表情はほとんど読めず、私は全身の血の気が引いていくのを感じた。まさかこんなに早くバレてしまうなら、ルバルドにいたときに言われていてた「余計な話はなするな」という教えを守っておくんだった。
王様はじっと私を見つめる。その視線が訝しげに歪むのを感じた。
そして思い出したように手枷を手に取る。
「あ……」
私の手に巻かれる。
まるで罪人の証のように巻かれるそれが、いつもより重く感じる。
例えば今バレたなら、私はどうなるんだろう。兄はどうなるんだろう。治っていない状態で二人、国を追い出されるだろうか。そうしたらどうやって生きていけばいい? きっとすぐに山賊に捕まってどこかの国に売り飛ばされてしまう。
「どうやって育ったらそうなるんだろうな」
その言葉にまた、ぎくりとした。
姫らしい教育なんてここに来る途中の数時間。それより前は道端で物乞いだ。当然といえば当然だけれど、今まで張っていた気がガラスのように砕け散るのを感じた。
「……、ふ」
気づけばボロリと涙が溢れる。
兄のためになるならと、ずっと姫のふりを続けて、いい妃になるふりをしようとしていた。慣れないドレスもヒールも生活も、毎夜の痛みも文句を言わず懸命にしてきたけれど、それでもやっぱり私はお姫様にはなれない。そう言われている気がした。