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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「ふ、ぅ、うぅ〜……っ」
「っ!? お、おい……」
私は結局どれだけ着飾ろうと、町の隅っこの汚い泥にまみれたみすぼらしい街娘で、兄が恋しいただの子供だ。泣きじゃくって、思わず王様が嫌がるだろうということも構わず、そのマントを縋るように両手で掴んだ。
「う、ううっ、うう……」
「お前っ、おい、放せ」
「わた、私だって、私だって頑張って……ぅ、うっうっ」
本当は期待した。自分でも頑張ればお姫様になれるんじゃないかと思った。馴染めるんじゃないかと思った。
けれど、それはやはり子供の浅知恵にすぎなくて、どれだけ頑張っても育ちが違いすぎる。その差が悲しかった。
「な、なんなんだお前……」
呆れたようなため息が聞こえると、何かが背中に乗り、じんわりあったかくなるのを感じた。
ゆっくりと顔を上げると、王様が先ほどまでの威圧感を完全に消し去り、途方にくれた顔をして私の背中をさすっていた。
「は、……う……うう……」
その手が暖かくて、初めて優しさに触れた気がして、私は砕けたガラスを吐き出すようにしばらく泣き続けた。その様子をどう受け取ったのか、王様はため息をつく。
「……すまない。姫らしくない、なんて、失礼だった」
「い、いえ、私も、取り乱して……、恥ずかしいです」
徐々に我に返って、おずおずと顔を上げてから涙を拭く。
ふと彼の大きな手が目元に伸びる。けれどそれは触れる寸前で止まって、力なく落とされた。その仕草にチクリと胸が痛む。
「いや……。オレなんかの元に来たのだから、泣いて当然だ。逃げ出さないのが不思議で……つい言い過ぎた」
すまないな、と王様は改めて手元に置いた目隠しに目をやる。
「窮屈な思いをさせてすまないが、これも、オレにとっては必要なものなのだ」
私は安堵と胸の痛みに少しの動揺を抱えながら、頷いて目を閉じることしかできなかった。
そうだった。私は彼を騙しているんだ。
出会った時から、ずっと、全部嘘。
私が語る言葉はすべて姫様としての言葉で、王様の優しさはすべてその姫様に向けられたものなんだ。
その重みが今になって急に存在を現した。
妻になるから好きになってもらわなきゃだとか、知らないから知りたいだとか、なんて図々しい願いなんだろう。
だって私は姫じゃない。
そのことに今更気づいて、なぜかふと、息が苦しくなった。
「っ!? お、おい……」
私は結局どれだけ着飾ろうと、町の隅っこの汚い泥にまみれたみすぼらしい街娘で、兄が恋しいただの子供だ。泣きじゃくって、思わず王様が嫌がるだろうということも構わず、そのマントを縋るように両手で掴んだ。
「う、ううっ、うう……」
「お前っ、おい、放せ」
「わた、私だって、私だって頑張って……ぅ、うっうっ」
本当は期待した。自分でも頑張ればお姫様になれるんじゃないかと思った。馴染めるんじゃないかと思った。
けれど、それはやはり子供の浅知恵にすぎなくて、どれだけ頑張っても育ちが違いすぎる。その差が悲しかった。
「な、なんなんだお前……」
呆れたようなため息が聞こえると、何かが背中に乗り、じんわりあったかくなるのを感じた。
ゆっくりと顔を上げると、王様が先ほどまでの威圧感を完全に消し去り、途方にくれた顔をして私の背中をさすっていた。
「は、……う……うう……」
その手が暖かくて、初めて優しさに触れた気がして、私は砕けたガラスを吐き出すようにしばらく泣き続けた。その様子をどう受け取ったのか、王様はため息をつく。
「……すまない。姫らしくない、なんて、失礼だった」
「い、いえ、私も、取り乱して……、恥ずかしいです」
徐々に我に返って、おずおずと顔を上げてから涙を拭く。
ふと彼の大きな手が目元に伸びる。けれどそれは触れる寸前で止まって、力なく落とされた。その仕草にチクリと胸が痛む。
「いや……。オレなんかの元に来たのだから、泣いて当然だ。逃げ出さないのが不思議で……つい言い過ぎた」
すまないな、と王様は改めて手元に置いた目隠しに目をやる。
「窮屈な思いをさせてすまないが、これも、オレにとっては必要なものなのだ」
私は安堵と胸の痛みに少しの動揺を抱えながら、頷いて目を閉じることしかできなかった。
そうだった。私は彼を騙しているんだ。
出会った時から、ずっと、全部嘘。
私が語る言葉はすべて姫様としての言葉で、王様の優しさはすべてその姫様に向けられたものなんだ。
その重みが今になって急に存在を現した。
妻になるから好きになってもらわなきゃだとか、知らないから知りたいだとか、なんて図々しい願いなんだろう。
だって私は姫じゃない。
そのことに今更気づいて、なぜかふと、息が苦しくなった。