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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
翌日のランチでは少し外に出ようと王様から言い出した。普段は奥に引きこもっているのにどうしたのだろう。
あんな失態をやらかした昨日の今日だ。泣いてしまった手前少し気恥ずかしい。
騙しているという自覚が芽生えてしまっては後ろめたいけれど、王様から声をかけてくれたことが嬉しくて、了承してしまった。
「う、馬、ですか」
しかし急に馬小屋に連れてこられて、大きな生き物に乗れと言われた時にはさすがに顔が引きつった。
バーチェスに来た時も馬車だったけれど、目隠しをされた馬でそばにも寄らなかった。こんな間近で見るとその生き物特有のニオイと太陽に反射する栗毛の毛並み、隆々とついた筋肉とブルルと震える鼻息にに思わず後ずさる。馬車の中から見るのと目の前にいるのでは迫力が違う。
「なんだ? 乗れないのか?」
「は、はい……こんな近くで見るのも初めてです」
「ふん、そうか」
「え、きゃあ!」
どうしたものかと焦っていると、一回り大きな黒馬にすでに乗っていた王様がぐいっと私の体を引き上げて、気づいた時には腕の中に収まっていた。
焦りと緊張と恥ずかしさで一気に汗が噴きだすのを感じて、気をそらそうと外を見れば、思った以上の高さにクラクラしてしまう。
「お、落ちっ、たか、高いです!」
「ゆっくり行く。いいから食事を落とさないようにしっかり持っていろ」
ぐっと片手が私の腰に巻かれる。
その力の逞しさにまた眩暈を覚えつつ、顔をあげることも背けることも出来ずに、ぎゅっと目を瞑った。
ゆっくり、と言ったくせに馬の走る振動は凄かった。落ちるんじゃないかと何度も膝の上に抱えたランチボックスをぎゅっと握りしめると、王様も同じように私の腰に回した腕に力を込めた。
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓は、馬のせいか腕のせいか分からないまま、その時間は永遠のように感じた。
「おい、目を開けろ」
馬の歩みが止まり、恐る恐る目を開けると、そこはあの暗い森の中にあるなんて信じられないくらい開けた緑の丘だった。
「すごい……」