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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
王様は小さくため息をつくと原っぱの適当なところに私を下ろした。もう片手には私が持っていたはずのランチボックスを下げている。
「あ、」
「世話のかかるお姫様だ。用意ぐらいはしてくれるか?」
「は、はい!」
急いで中から薄い敷物を広げ、その上に腰を下ろしてランチを広げていく。誘いに来た時に王様が持ってきた物だ。何が入っているんだろうとワクワクしながら並べていった。
焼き菓子、ラップサンド、果物、容器に入れて固められたケーキ、サラダ、水筒には甘い紅茶。
「わあ……! 」
ここに来てこんなに一度に甘いものが出てくることがなかったから思わず唾液がこみ上げる。甘いものなんて誕生日に僅かな菓子パンを食べるくらいだったから、まるで夢のような光景に目が輝いてしまう。
「好きだったか」
「は、はいっ! なんだか、夢みたいです!」
答えてから、はしたなかったかと我に返ったけれど、王様は柔らかな目を髪の隙間から覗かせていた。
「好きなだけ食べろ」
「はい! あの、王様も……」
私が差し出す皿を、王様は頷いて受け取った。
たったそれだけなのに、嬉しくなってしまう。この心境は例えるなら、近所の素っ気ない猫が初めて手ずからご飯を食べてくれた時の感動に似ていると思う。
何を口に入れても美味しくて、甘くて、幸せだ。
人生でこんなに幸福感を味わったことがないと断言できるくらい満たされながら食べていると、いつの間にか食事を終わらせていたのか、ぼんやりと私を眺める王様と目があった。
「……あっ……すみません、食べるの遅いですか?」
「いや、いい。好きなだけ食べろ」
私は少し気恥ずかしくなりながら、気持ち早めに食べていく。
たくさん用意されていたランチはほとんどを私が食べて終了した。
食後にお茶を飲みながら、丘の向こうをぼんやりと眺める。
正直なところ食べ過ぎて動けないのだけれど、王様もすぐに帰ろうという気配がないので甘えているのだ。
「いいところですね。私、知りませんでした」
「ああ、ここは人があまりこない場所だからな」
「ハイネさんとよく来るんですか?」
「……いや、来たことはないな」