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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
「わ、私は……」
「名前を言ってみろ」
何を間違えたのか。
王様はただ淡々と話す。けれど、口調や微かに見える目が私が姫でないことに確信を持っているようだった。掴まれた腕が痛い。
「私は、」
頭が真っ白になって、姫の名前が思い出せない。私を射抜く二つの緑から目が離せず、頭が回らない。
「オレはむかしに一度、ルバルドの姫に会っている」
「……え」
まるで冷水をかけられたみたいだった。
愕然とする私の腕をようやく放すと、小さく息を吐いた。
「会って、る?」
「ああ。少なくともオレの知っているルバルドの姫は、人に謝ることをせず、わがまま放題だった」
「……それは……」
「最初は何かがあって心を入れ替えたのかと思っていたが、アレは俺の目の色を嫌って一瞬でも目を合わそうとしたことがなかった。綺麗なんて……言うわけがない」
「……」
「お前は何者だ」
次々に知らされる事実に私は言葉を失う。夢でも見ているみたいだ。自分とは関係ないところで起こっていることのように何も考えられず、何も感じない。
「……私は、」
口を開くと同時に、ポロリと一滴、涙が溢れた。何も感じないから、その雫に全部の感情を詰め込んだみたいだなんてぼんやり頭の片隅で思いながら。
そこから王様は見えなかった。視界がぼやけてしまったから。それでも彼の呼吸や、そこにいる体温は感じ取れた。
「名前は」
「ミア・ローゼス」
「本当は何者だ」
「物乞い」
「何故ここにいる」
「アメリア様が、逃げたから」
「何故ここにいる」
「ルバルドの王様に頼まれたから」
「何故ここにいる」
「バーチェスの支援を受けたいから」
まるで催眠術にかけられているみたいに、ポツリポツリと聞かれたことを無心で答えていく。