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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
「ミア」
「!」
低い声で、初めて本当の名前を呼ばれる。心臓が跳ねた。
その時ようやく、彼のまっすぐに向けられた目を見る。
「何故、ここにいる」
「に、兄さんを、たすけたいから」
瞬きをした。一滴が通った涙のあとを追うように、ボロボロと涙が流れだす。
耐えられなくなり、両手で顔を覆うとそこで初めて自分の指先が痛いほど冷えていることに気づいた。
王様の追求は止まらない。
「兄はなんだ」
「病気で、でも、私は助けられな……っ」
「他に家族は」
首を振る。嗚咽がこみ上げて、言葉を話せなかったからだ。
ああ、これで終わりだ。
なんてことはない。分かりきっていたことで、姫の代わりなんかただの物乞いには務まらなかった。ただそれだけで、それなのに私は今少なからず、兄さんのことだけじゃなく、この王様にがっかりされることを嫌だと思っている。
急いで地面に額がつくまで頭を下げる。
「お、王様……っ、聞いてください。身勝手なのはわかっています……嘘をついて、騙して、殺されても仕方のないことをしました……でも、どうか、ここに、おいてください。なんでもします……そうじゃないと、兄さんは……私は……っ」
こんなこと、頼める義理はない。図々しくて、どうかしている。けれど、私が今できる精一杯のことは、王様にお願いすることだけだった。
「わかった」
何時間にも感じられる沈黙の後、王様の言葉にパッと顔を上げる。
王様はまだどこか考えるように遠くを見ていた。
「……メイドとしてなら置いてやろう」
「は……、はい! ありがとうございます!」
再び地面に額を擦りつけるように頭を下げた。
「っ顔をあげろ……。オレのメイドになるのなら、少しのことで頭を下げるな」
「は、はいっ」
王様は少しだけ動揺して、私を地面から立ち上がらせる。
そうしてこの瞬間から、私はルバルドの姫からバーチェスのメイドになった。