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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
その夜、初めて王様は部屋に現れなかった。
私は姫ではなかったのだから当然と言えば当然なのだけれど、安堵と同じくらい落ち込む気持ちもあって、それを認めることも嫌で、胸がもやもやする。初めて眠れない夜を過ごした。
「お姫様じゃなかったんだってね」
翌朝になってハイネが朝食と共にメイドの服を持ってきた。
昨日帰ってから聞いたのか、ハイネは砕けた話し方になったけれど、今までと同じように柔らかな笑顔を浮かべるだけだった。私はその笑顔に、抱えていた心の錘が解けたことへの開放感を感じる。
「うん……、そうなの。騙して、ごめんなさい」
「ふふ、今までの姫様とは違うから、不思議だなと思ってた」
「……そんなにおかしかった?」
寝室で着替える間、ハイネはリビングのソファに腰かけているようだった。
「そうだね。相当な箱入りか、自由奔放に育てられたのか。上流のしつけを受けていない感じだった。それに、今までみたいにすぐ逃げないのもおかしいなって思ってたよ」
「そ、そんなに……」
自分の中ではわりと気をつけていたつもりだけれど、やはりバレるのは時間の問題だったということなんだろう。
そう思えば、身代わりと分かってもなおここに居続けることが出来るのはむしろラッキーなんじゃないか。普通なら即刻送り返されて病気の兄と共にルバルドを追放されていただろう。
「――あ。……ねぇ、ハイネ」
「なあに?」
「私が身代わりだったことで、やっぱりルバルドには抗議がいったりするのかしら」
それなら私がここに居続けても意味がないかもしれない。私は追放を免れても、あの国には兄がいる。バレたことがルバルドに伝わったら、ここに居いてもらう意味もなくなる。
「さあ、そこは王様次第だけど……。ねえ、どうして嘘をついてまでここに来たの?」
「……前に、手紙がきていたでしょう? あれは兄さんなの」
「本当のお兄さん? アメリア姫のお兄さん?」
「私の兄よ。兄さんは病気で、私はお金がなくて、お姫様の代わりをしたら国が面倒をみてくれるって言われたの」
あの運命の日のことを思い出す。
やっぱり断ればよかったんだろうか、なんて今になっても思うけれど、アヴァロ王やハイネの人柄に触れる度、やっぱり受けてよかったと思ってしまう。それに兄さんの病気を治せるなら、きっとどんな国にも行っただろう。