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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
昼の三時にハイネに言われた部屋に向かってノックして声をかける。
今まで最初に会ったあの部屋がそのまま王様の自室なのかと思っていたけれど、どうやらあれは謁見用で別に部屋があったらしい。考えてみればあんな薄ら寒く暗い空間が自室なんて無理だと今更納得してしまった。
私の部屋からそう離れていない青いドアを再度ノックしようとすると、「入れ」と声が聞こえた。昨日はあのランチから無言で戻り、そのまま部屋に帰されてしまったのでそれ以降話す機会がなかった。いつもの夜の訪問もなく、やはりあとから怒りが湧き起こっているのではと思うと、ティーセットが乗ったお盆を持つ手が震える。
「し、失礼します」
そっとドアを開けると、私の部屋と同じつくりの空間に家具の色調を変えただけの部屋が広がる。けれど窓は分厚いカーテンで締めきられ、いつも食事を取る机に大量に積まれた書類。あちこちに置かれた数々の蝋燭が光る。その部屋は夜だった。
今朝ハイネがリラックスして座っていたソファに腰かけた王様が、何かの書類を眺めていた。
「ああ」
王様は私を見ると周囲を見渡して、近くの花瓶の乗った小さな机を指した。
「そこに置いてくれ」
「は、はい!」
慣れない給仕と手元の震えが手伝って、ガチャガチャと雑な音を立てながらゆっくり進む。その様子を不安に思ったのか、私がたどり着く前に王様自身が花瓶を手に取った。開いたスペースにティーポットを置こうとすると、そのお盆も掴まれる。
「落ち着いてくれ」
「はい!」
「盆ごと置いていって構わん」
「はい!」
「ミア」
「っ」
名前を呼ばれ、ぐっと体温が上がる。そっと視線を上げると、暗がりでも存在を主張する緑の目とぶつかる。それは怒りも嫌悪も感じない、昨日見たままの目だ。
夜に現れなかったせいだろうか、暗がりでこの目を見ると条件反射のようにキュンと下腹部が疼くのを感じる。
僅かな接触と、硬く逞しい猛りと、拘束される不自由さと、絶頂に僅かに息を吐くその一瞬。幾度となく繰り返される情事が頭を過ぎって、仄かに呼吸があがった。
「は、い」
「……彼に、無茶なことは言われていないか」
「彼……あ、ハイネさん……。いえ、とても親切にしてくれています」
「そうか。……頑張れ」