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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
人は生まれながらに平等ではない。
少しの希望を胸に、少しでもよりよく生きようとしても、力のない者は力のある者にあっという間に押しつぶされてしまう。
私自身はそれほど大それた願いを持っているわけではなくて、例えば健康に長生きしたいとか、お腹いっぱいのまま眠りにつきたいとか、――兄の病気を治したいとか。
「ほお、聞いていたが、確かに」
「これなら安心ですなあ」
「いやはや、まるで生き写しのようでいらっしゃる」
目の前にいる男たちは入れ替わり立ち代り、まるで珍獣でも見るかのように丸聞こえの感想を口々に漏らしている。その中で一番煌びやかな装飾に身を包んだ中年男が、ようやく私に視線をあわせた。
「お主、名前はなんと言う」
「ミ、ミア・ローゼスと申します」
「ふん、我が子にそっくりだ」
白ヒゲ男は感心したように頷き、そのヒゲに指を埋めた。
「聞けば、彼女の兄は病に伏しているそうですよ?」
「ふうむ」
「……」
隣に立った細身で神経質そうな男が、自信げに声を上げた。
何でもない朝だった。
いつも通り、慣れ親しんだ小汚い城下町の隅っこで街中を彷徨っていると、急に身なりのいいこの男が声をかけてきたのだ。
「大変でしたよ、国王。なにせ姫様は稀にみる麗しさ! しかし私めがもってすれば城下町の隅に息を潜める可憐な野ネズミを見つけてくることなど容易いのです!」
地味に自分が野ネズミ呼ばわりされていることは置いておいて、やはりこの男の興奮ぶり、ただごとではない。
ほとんど人攫いのようにギラついた馬車に押し込まれて、連れてこられた先はいつも遠くからしか見ることのなかったお城。とすれば、やはり目の前の白ヒゲが我が国ルバルドの国王様なのだろう。
大興奮の男をよそに、国王はまだ値踏みするように上から下まで不躾にその瞳で私を舐る。
「あ、あの……」
「ミアといったか。お主歳はいくつだ」
「じ、十七になりました」
「親はどうした」
「幼い頃に二人とも亡くしまして……今は二十になる兄だけが家族です」
「何をして食うておる」
「物乞いや……兄の稼ぎで」
「お主の兄は病気だと言ったな。治療は金がかかるのではないか?」
「え……、ええ」
「どうだ、お前の力で兄を助けてやらんか」
「は、」
少しの希望を胸に、少しでもよりよく生きようとしても、力のない者は力のある者にあっという間に押しつぶされてしまう。
私自身はそれほど大それた願いを持っているわけではなくて、例えば健康に長生きしたいとか、お腹いっぱいのまま眠りにつきたいとか、――兄の病気を治したいとか。
「ほお、聞いていたが、確かに」
「これなら安心ですなあ」
「いやはや、まるで生き写しのようでいらっしゃる」
目の前にいる男たちは入れ替わり立ち代り、まるで珍獣でも見るかのように丸聞こえの感想を口々に漏らしている。その中で一番煌びやかな装飾に身を包んだ中年男が、ようやく私に視線をあわせた。
「お主、名前はなんと言う」
「ミ、ミア・ローゼスと申します」
「ふん、我が子にそっくりだ」
白ヒゲ男は感心したように頷き、そのヒゲに指を埋めた。
「聞けば、彼女の兄は病に伏しているそうですよ?」
「ふうむ」
「……」
隣に立った細身で神経質そうな男が、自信げに声を上げた。
何でもない朝だった。
いつも通り、慣れ親しんだ小汚い城下町の隅っこで街中を彷徨っていると、急に身なりのいいこの男が声をかけてきたのだ。
「大変でしたよ、国王。なにせ姫様は稀にみる麗しさ! しかし私めがもってすれば城下町の隅に息を潜める可憐な野ネズミを見つけてくることなど容易いのです!」
地味に自分が野ネズミ呼ばわりされていることは置いておいて、やはりこの男の興奮ぶり、ただごとではない。
ほとんど人攫いのようにギラついた馬車に押し込まれて、連れてこられた先はいつも遠くからしか見ることのなかったお城。とすれば、やはり目の前の白ヒゲが我が国ルバルドの国王様なのだろう。
大興奮の男をよそに、国王はまだ値踏みするように上から下まで不躾にその瞳で私を舐る。
「あ、あの……」
「ミアといったか。お主歳はいくつだ」
「じ、十七になりました」
「親はどうした」
「幼い頃に二人とも亡くしまして……今は二十になる兄だけが家族です」
「何をして食うておる」
「物乞いや……兄の稼ぎで」
「お主の兄は病気だと言ったな。治療は金がかかるのではないか?」
「え……、ええ」
「どうだ、お前の力で兄を助けてやらんか」
「は、」