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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
それは、一体どういうことなんだろう。
今まで育ててくれた親同然の家族を助けたいという思いに偽りはないけれど、この尋常ではない状況に「はい」と言いかけたものの、そのあとに待ち構えているものが怖くてヒュッと息を呑んだ。
王様は私の気持ちを察しのか、すぐに神経質男に声をかける。
「ふん。ザック」
「はい」
ザックと呼ばれた神経質男は膝を曲げて、まるで小さい子供を諭すように顔を覗き込んできた。馬車の中でも彼に根掘り葉掘り聞かれたけれど、その声や表情はまるで人を騙す蛇のような狡猾さを潜めていて、私は無意識にスカートの裾をぎゅっと握る。
「君に大事なお願いがあるんだ。君がそれを受けてくれるなら、私たちは君の大事な兄さんの病気を治してあげよう。どうだい? 悪い話じゃないだろう?」
「ほ、本当、ですか」
「こちらにいるのはルバルドの国王様だよ? 嘘をつくわけがないじゃないか」
狐のように悪そうな笑顔でそう言われても、正直説得力なんかないのだけれど、兄さんを助けられるなら何でもしたいと思う。けれど、この話は何か怪しいと頭のどこかでずっと警報がなっているのも事実だ。
それでも逡巡したのは一瞬だった。だって、私にできることで救えるのなら、きっと逆の立場なら兄さんだってそうするはずだ。
「私は……何をすればいいんですか」
「なあに、そんな難しい事じゃない。むしろ夢にまで見た体験ができるかもしれない」
(夢にまで見た体験?)
なんだろう、とふと首を傾げていると、狐はニンマリと口元に三日月を描いた。
「君はお姫様として、隣の国に嫁入りするんだ」
「アレは政略結婚に最初から反対していてな。目を放した隙に、いい仲の使用人と逃げてしまったのだ。幸いにもお主は姫と瓜二つ。姫のフリをして隣国のバーチェスに嫁いでほしいのだ。そうすれば我が国には支援が貰え、お主の兄は治療を受けられる。悪い話じゃないだろう」
悪い話じゃない、わけがなかった。
内容も相当なものだが、何よりも気になったのは嫁ぎ先の国だ。
教養を全く受けていない私でも知っている。バーチェスとはこの地方では有名な、おとぎ話のモデルになった国だ。
――女神の呪いによって醜くされた王様
それがバーチェスの国王だと言われている。