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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき



「お注ぎしましょうか?」

「ああ……頼む」

また、最近になり、四六時中夜闇に沈んだ部屋にお茶を運ぶ度、王様の視線が痛いほど向けられているのに気づいた。

必要最低限の会話しかなくても、私が部屋に入り、決められた位置にティーセットを置くその一挙手一投足を記憶するかのようにじっくりと眺められているのだ。


「ミルクは」
「いや、いい」


自然を装って振り返ってみると、彼はすぐに書類に視線を落とす。

私が再びティーポットの方に視線を戻すと、穴が開くのではないかと思うほどの強烈な視線を感じるのだ。その視線に、薄暗い部屋に、蝋燭が燃えるにおいに、私は秘かに胸の先がぷくりといきり勃つのを止められない。

まるで彼の目に犯されているようなその感覚にゾクゾクとして、私はいつも後ろ髪引かれる思いで部屋を後にするのだ。


ならばなぜ抱いてくれないんだろう。私が姫じゃないからか。それならいっそのことはっきり態度を変えてくれたほうがマシだと思った。

今までと同じ態度。けれど明確に違うこと。
近いようで遠い存在が胸を苦しくさせた。



***




来客があったのはそんな数日を過ごしている時だった。

「私に?」
「うん。姫様に直接ってルバルドの騎士が来てるんだって」

ハイネの言葉になんだか久しぶりにそう呼ばれた気がする。

「姫様……」
「王様に聞いてなかった? 結局あの国には君のこと伝えてないんだって」
「そう、なの……」

実際のところ最近は淫靡な夢とあの視線に翻弄されてばかりで、仕事をするだけでいっぱいいっぱいだったのだ。

王様の気遣いに感謝しつつ、急いで裏門まで走った。
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