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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
ハイネの言葉は私にとっても初耳だった。私も来て数日はほとんど接することもなかったし、逃げ出すだろうと言われたこともあったから、そういわれてみれば納得だ。それにいつ敵対するか分からない他国の人間なんて、いくら嫁に貰った国の人間といえど抵抗があるのだろう。ましてや王様はこの地域では有名な引きこもりだ。
ユーリと名乗った騎士は嫌な顔ひとつせずに爽やかな笑顔を浮かべた。
「存じております。なので、姫様を少しの間お借りしてもよろしいでしょうか? 近くの森を散歩しながらルバルドの様子をお伝えしたいのです」
ルバルドの様子、というより兄の様子だろうか。その言葉に兄の体調が優れないのではと急に鼓動が速くなっていくのを感じた。無意識にハイネを見ると、彼は笑って頷いた。
「ええ。ですがそろそろ日も落ちますので、お早くお願いしますね。バーチェスの領土とはいえ山賊などが出ないとも限りませんので」
(これはどういうことだろう)
数分後、私は多くの混乱の中にいた。
日の沈む夕暮れを木々の間から差し込む森の中で、私は――
「姫様、ずっとお会いしたかった……」
騎士ユーリに熱烈な視線と愛を告白されていた。木に追い詰められて、息が触れそうなくらい至近距離で。
「あ、あの」
「ああ、良いのです。私に余計な言葉は要りません。貴女にもう一度会うために私はどんな苦労も厭わなかった!」
私が喋ろうとする度に口元に人差し指をあてられて遮られる。
彼は情熱的に自分の胸をかき抱き、念願叶ったりと感動しているようだった。
「……苦労?」
「ええ! ええそうですとも! 貴女に会うために何人もの伝達人の体調を壊させ、不慮の事故に遭わせ、時には金でつりながら、やっとのことで今日という日を手に入れた! さあ、約束通り私とひとつに……」
「ちょ、ちょっと!」
とても聞き流せない不穏な事実が次々聞こえてきたのだけれど、ユーリは一秒でも待てないというように無遠慮にその手をスカートの中に侵入してくる。
王様と目隠しなしでこんな距離でいたことはなかったけれど、明らかに王様のほうが体格も身長も上だろうに目の前のユーリはとても大きく、立ちはだかる壁のように見える。勢いと、素朴で精悍な顔つきの下に隠れていた熱に浮かされたような熱い視線に、恐怖で腰が抜けそうだ。