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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
「ちょっと、待って! わ、私は今バーチェスの王のものなんですよ!?」
咄嗟にいった言葉に自分でドキンとした。
バカみたいだけれど、自分は確かに支援と引き換えに渡された人間で、今はもう姫じゃなくても、メイドとしてでも、私は王様のものとして保護されている。ルバルドに伝わると兄がどうなるか分からないから、それを汲んで抗議もせずに、姫でもない物乞いだった私を、王様は所有してくれている。それをとても幸せに感じた。
「貴女が言ったんじゃないですか」
「……え?」
けれど、ユーリの反論に私は思考を停止する。
「貴女が、バーチェスになど行きたくないから、もしもの時は迎えに来て一緒に逃げようと言ってくれたんじゃないですか!」
「……いつ?」
「嫁入り一週間前に」
「あなたに頼んだ?」
「貴女のベッドの中で」
彼は何を思い出しているのか、目を閉じてふふ、と笑った。
姫が誰かと逃げ出したのはそれより後だったはずだから、つまり彼は保険だったのだろう。
アメリア姫とは会ったことも見たこともないが、同衾までした彼が間違えるくらいなのだから相当私に似ているんだろう。随分とやり手なところは似ていないが、少しその自由奔放さが羨ましい。
唖然とする私をお構いなしに、彼は鼻息を荒くメイド服の胸元を破るように開いた。ボタンが数個飛んでいくのが見える。
「きゃあ! ちょっちょっと待って! 違うから!」
「いいえ違いません! 私以外にも何人もの男と寝ているのは知っておりました。けれど、いつか私だけのものになると、そう信じておりました。それが今叶った! もう待てません!」
決して大きくはない胸に鼻を擦りつける様にして胸いっぱいに吸い込むように深呼吸をする。その熱く逞しい腕が抱き潰すように私の体を抱いて、すんすんとニオイをかいでいる。その異様な状況にぞわぞわとして手が、足が震えた。怖くて動けない。
「あの日、送り届けた日の姫様はまるで生まれ変わったのかと思いました」
「……え、」
「まるで聖女のように穢れも知らない乙女のようで、私はそんな貴女を化け物の城へ送り届けたことを後悔しました」
あの時は本当に穢れを知らない乙女だったのだが、まさか彼にそんなことは言えない。