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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき

「ユ、ユー……ッ!!」
怒りに燃えるその目が急に近づいてきたと思った次の瞬間には唇が触れていた。
王様ともしたことがない私のファーストキスが、このほとんど知らない男に奪われた。
肌と肌の接触だ。
握手となんら変わらない。
そう自分に言い聞かせようとしたけれど、王様を裏切ったような気持ちには勝てなくて、
「――っ!」
勢いよく突き飛ばした。そうくるとは思っていなかったのか、ユーリはあっさりと後ろに下がる。
「姫?」
目を大きく見開いて、唇を噛み締める。
この男の前で泣くのは絶対に嫌だった。アメリア姫の身代わりをすることを了承したけれど、彼女の性生活の尻拭いのためじゃない。胸がざわついて仕方なかった。
「……姫」
私が口を開きかけた時、ユーリが今までとは違うトーンで呼ぶ。
気づけばとっくに日は落ちて、辺りは暗い。ほんのりの照らす月明かりが木々の間から漏れていた。その光の筋が、時折何かを捕らえる。
「身なりのいいナイト様じゃねぇか。金目のモン全部置いていけば命だけは助けてやるぞ」
ノイズ混じりの様な聞きにくい声が響いた。
周囲にはどれほどいるのか、気づけば私たちは山賊に囲まれていた。
ユーリが剣を抜き、私を庇うように立つ。
「馬鹿を言うな。貴様ら全員、死にたいのか」
「おお、おお。ナイト様はカワイイメイドを守りたいってか」
月の光に現れては消え、また別のところから声がする。足音はどれだけいるのか分からないが、四方から聞こえてくるように感じた。
「お、おい」
その中の一人が、何かに気づいたように声をあげる。
「そのメイド、バーチェスの黒城のもんじゃねぇか」
「ああ? メイドなんかどこにでもいるだろうが」
「違ぇよ! 黒服のメイドは呪われた王の所有物だから、手を出したらやべぇって西の方の奴らが!」
ハイネに渡されたものだったけれど、そんな特徴的なものだとは知らなかった。確かに食事を運んできてくれるメイドとは少し違う色だったけれど、さして気にしていなかったのだ。
「へえ。それじゃ丁度いいじゃねぇか。さらって身代金たっぷり頂こうぜ」
ボスなのか、ノイズ混じりの声は嬉しそうにゲラゲラと笑った。その言葉に緊張が増す。
「姫様、私が引きつけますのでその隙にお逃げください」
「えっ……」

