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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第3章 うそつき
「へへ、大人しくしてな」
「……王様」
近づく手にぎゅっと目を瞑る。
――ザンッと風を切る音がした。
目を開けると私と山賊の間に見たこともない横幅の広い大きな剣が刺さっていた。
「貴様ら、ここをバーチェスの領土と知っているのか」
低く洞窟の奥から響くような声が背後で聞こえた。振り向くと、月夜に照らされて夜の使いのようにいつもと同じ真っ黒なマントに身を包み、山賊たちを今にも飛び掛ろうかという獣のような鋭さで睨みつけていた。
「ひっ、」
「に、逃げろ!」
一人が持っていた短剣を取り落とし、その音を合図に散り散りに転がるように逃げていった。
「……は」
まだ目の前で起こったことが信じられなくて、王様を呆然と見る。
彼は無言で地面に刺した大剣を背負っていた鞘に戻して私を見下ろす。
「……茶が、飲みたい」
「は、はい」
ぼろっと涙がこぼれた。
王様の前で、私は泣いてばかりだ。
助けてくれた。助けに来てくれた。
それと同時に、事故とはいえ王様を裏切ってしまった。その痛みがまた蘇る。
「ミア?」
「……」
なかなか立ちあがらない私を不審に思ったのか、王様は屈んで私の頬に触れた。
温かくて大きい、私を安心させる手と、柔らかくて美しい緑の目。
その目をしばらく見つめると、気づけば背筋を伸ばしてその口元に唇をよせていた。
「――っ」
髪と髭に隠された、彼の微かな吐息を感じる。
その目が見開かれると、緑がより範囲を増して綺麗だった。
私は無意識に口付けしたのだ。
「……あっ!」
それに気づくと急激に恥ずかしくなって、どうしたらいいのか分からず顔を覆う。王様はただ静かに私を抱き上げて「城に戻るぞ」と呟くとゆっくり歩き出す。
ちらりと盗み見ると王様の目は悲しげで、ずきりと胸が痛むのを感じた。