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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第4章 孤独な牢獄
翌朝、昨夜よりずっと良くなった足を念のために再び冷やしながら、兄さんの手紙を開いた。
そこには体調が良くなってきていて、王様の許しがもらえたら騎士のフリでも伝達人のフリでもいいから一目でも会いに行きたいと書かれていた。
順調に回復しているようすがその筆跡からも伝わってきて、私はほっと胸を撫で下ろす。
「起きてるー?」
ノックとほぼ同時にドアが開く。ハイネが朝食と共に顔を覗かせた。
「あ、起きてた。氷持ってきたんだ」
「ありがとう。昨日もその、ありがとう」
「え?」
「服のフォローしてくれて……助かったわ」
うっかりメイド服で出て行ってしまったせいで、危うくユーリに正体がバレるところだった。
ルバルドでも国王と一部の者しか知らない事実と、それをバーチェスに知られてしまったことを隠すこの状況はどう考えても不自然なのだろうけれど、時間稼ぎでもハイネの気遣いはありがたかった。
ハイネは持ってきた新しい氷袋と取り替えながら口角を上げるだけで答えた。
「いいよ。……そう思うなら、早く治してお城の中掃除してよね」
「ふふ、今日だって出来るわよ」
昨日ほど痛くもない。少しは歩きが遅くなるだろうが、それでも高いところは今度にして膝をついたりすればそんな難しくもない。しかしハイネは大仰な仕草で首を振った。
「今無理して長引かせたら周りにも迷惑でしょ。王様が良いっていってるんだから素直に休みなよ」
「王様が……?」
ふいに、昨日の口づけが頭を過ぎる。
「うん。治るまではお茶とかもいいからって。ティーカップ割られたら大変だもんね」
ハイネは悪戯っ子のように笑うけれど、私にはそれが距離を置かれたような気がしてならなかった。
(やっぱり……ついやってしまったことだけど、キスしたこと……王様は嫌だったのね)
当然といえば当然だ。なぜなら私は物乞いで、メイドで、お姫様ではない。
分かりきっているはずなのに、どこか飲み込みきれない感情は、見えない沼にどんどん沈んでいくようだ。
と、ふいに爽やかな香りが鼻を突いた。
「ほら、あーん」