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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第4章 孤独な牢獄
見ればハイネが楽しそうな顔で目を細めて、フォークに刺したオレンジの果実を差し出している。
「私もうお姫様じゃないんだけど……」
「あはは、いいじゃん。僕が楽しいんだからさ」
「もう、あー……ん」
やれやれと口を開けたけれど、こんな楽しそうな笑顔を前にして断れるはずもない。私はその後しばらくハイネの過剰ともいえるお世話を存分に受けた。
「ハイネって兄さんみたいね」
「兄さん?」
食事のあとはベッドまで連れて行かれて強制的に眠らされる。風邪ではなくて足の怪我、しかも軽傷なのだが、ハイネいわく「眠って自己治癒力を高める」そうだ。難しい言葉を知っている。
傍らに座って布団の上をぽんぽんと叩く様子に、自然とこぼれた言葉にハイネは目を丸くした。
「うん。世話好きなところが兄さんそっくり」
「そんなこと初めて言われた……」
「そう? 兄弟はいるの?」
ハイネはぼんやりと遠くを眺めてから、視線を落とす。
親に見捨てられたと言っていたことを今更思い出して何か言おうと口を開くと、彼は笑った。
「いないよ。僕は一人っ子だから、本当はわがままなんだ」
「そうなの」
「うん……なんでも思い通りにさせたいんだ」
普段のハイネからは想像が出来ない。少し意外だ。
「そうなの?」
「……。ねえ、君は王様をどう思う?」
「えっ?」
それ以上話したくなかったのか、急に王様のことを聞かれる。まさか昨日の口付けのことを知っているのかと、心臓が飛び跳ねそうになった。
「そ、そうね……優しい人だと思うわ」
「優しいね……。今までたくさんのお姫様が来たけど、優しいなんて言ったのは君が初めてだな」
何を思い出しているのか、ふと冷たい目をして笑っている。その表情はまるで日ごろの彼とは別人みたいな、私よりもっと年上の大人に見えた。
「ハイネ……?」
「地位も、名誉も、お金も、何でもあるのに、どうして皆好きになってくれないのかな」