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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第4章 孤独な牢獄
「……何してるの」
「っ! は、ハイネ」
いつの間にか目を覚ましていたらしい少年は、その透明な青い目を夕陽に反射させて、猫のような金色に輝かせていた。
ハイネはそっとその本を取ると、壊れた棚の上に置いてしまう。
「あっ、あの、ごめんなさい……」
「人の部屋に勝手に入るなんて、本当に躾のなってない子だね」
強い夕陽が彼の表情に陰影をつけすぎているからだろうか、普段とは違うピリピリした空気をはらんでいて後ずさる。
「は、いね……?」
寝起きだからだろうか。なんだかいつもと雰囲気が違う。
それにこの壊れ、荒れた小部屋がハイネの部屋だなんて思わなかった。なんだか不似合いな気がする。
「あの……、ごめんなさい。ハイネの部屋だと知らなくて」
「ふん」
ハイネは空気を胸いっぱいに取り込むように一度深呼吸してから、私を見てニヤリと笑った。
「ああ、なんだ。君とてもはしたない匂いがするよ。メスの匂いがする。物乞いだとバレてから王様に嫌われちゃったの?」
彼の言葉にビクリとした。まさか連日の慰みのせいか、それとも下の口から滴る蜜のにおいでもするんだろうか。けれどそれ以上に、王様に嫌われたという言葉に知らず拳を握った。
「あの……、でも、今までと変わらず接してくれているし……」
抱かれなくなっただけで、それ以外はむしろ好意的になったと思っていた。しかしそれも、昨夜のキスで変わってしまったかもしれないが。
ハイネは天使のような柔らかな笑いを起こした。
「あっはは! そりゃ変わらないさ。だって王様だもの。王様はみんなの一番上に立つんだよ? 国民を平等に接するのが王様でしょ? 姫が本当は物乞いだったからってあからさまに態度を変えたら、それは差別につながるじゃない」
ハイネの楽しそうな声に、私の思考は活動を停止していく。彼は構わず一歩踏み出して私を棚に追い詰める。片手を棚について、頬が触れそうな距離に近づくと耳元で囁いた。
「ねえ、なら僕が慰めてあげようか?」