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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
そう思うと急に、王様やこの城に住み着く謎は私なんかが気にするのもおこがましい気分になってきた。

ここに居続ける理由は、本当はシンプルだ。兄さんが治療に専念できること、そのために私が出来ることは王様の心配じゃない。

陽が完全に昇るのを待ってから、私は着慣れたメイド服に身を包んで部屋を出た。




ハイネの言う祭典が近いせいか、賑やかなラッパの音が時折黒城まで聞こえてくる。

私は昨日掃除できなかった分を取り戻そうと一心に各部屋を掃除して周り、日が傾いて暫くしてようやくピアノの備えつけられた大きな一室にたどり着いた。

大きな空間と中心部を大きく開けて、余計な調度品が一切ない部屋。天井はドーム状になっており、ステンドグラスで出来ているようでキラキラと色鮮やかな光を降らせていた。昨日は余裕がなくて気づかなかったけれど、ダンスホールなのかもしれない。

もちろんダンスなど踊ったこともないけれど、こんな広々としたスペースいっぱいに踊れたら、どれほど楽しいだろう。


「……~」


知らず鼻歌を口ずさみ大きなホールを箒で掃いていく。この部屋だけ床の素材が違うのか、少し歩くだけでカツ、と心地よい音が鳴る。それがまた楽しくて、外から聞こえてくるにぎやかな音にもつられて出鱈目に踊るように掃除をしていた。


「ふふっ」

「っ!」


突然聞こえた秘かな笑い声にハッとして顔を上げると、小さなトレーを片手に乗せたハイネが口元を押さえて笑っていた。


「ふふふ、ごめん。ランチの時間になっても姿が見えないから探しに来てみたら、随分楽しそうに掃除しているからさ」
「……ご、ごめんなさい。ちゃんと掃除するわ」
「いいよ。少し休憩」


ハイネは昨日のことなどまるでなかったかのように自然に接するから、私もつられるようにその提案を受け入れた。

気づけは夕方近くになっていたらしく、王様へのお茶はハイネが手配してくれたらしい。時間を忘れるほど掃除に熱中していたつもりもなかったけれど、昨夜のことを思えば会わずにほっとしているのが正直なところだ。


「ここ綺麗ね。ダンスホール?」

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