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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
部屋の隅にある小さな長椅子に二人で腰かけてかなり遅めのランチになったサンドウィッチを口に頬張る。フルーツ入りなのか仄かな酸味と甘みが広がって思わず目を細めた。
「そうだよ。今は全然使わないけどね」
「あれ、……でも黒城の方があとに出来たのよね?」
「ここはプライベート用なんだよ。お客さんを呼んでパーティするなら、こんなところじゃ狭すぎるからね。白城にもっと大きいところがあるよ」
プライベート用、ということはやはり、王様とお姫様が使う空間ということなんだろうか。聞きたくて、でも口を開くと別の言葉が出た。
「パーティ? じゃあ、この前言ってた祭典でも?」
「そうだね。前夜祭には舞踏会があるし、今年は劇団を呼ぶからそこで披露するんじゃないかな」
「ダンスホールで?」
「前の王様が異国の変わったものを集めるのが好きでね、プロジェクターとかいったかな。劇団が公演しているところをそのまま国中の大きなスクリーンに映すことが出来るんだよ。それで国民も楽しめるし、貴族とか、来賓の人たちは城内で優雅に見れるでしょ?」
私にとってバーチェスも十分異国なのだが、それよりも遠くなのだろう。異国の機械は説明されてもいまいちイメージ出来なかった。未だにバーチェスの町並みを見たことはないけれど、恐らくルバルドよりも数段発展しているのだろう。
「なんだか想像できないわ。でも国中で見れるなんてすごいわね」
「祭典自体は国民への慰安をメインにしてるからね。金持ちだけが楽しんでもしょうがないでしょ」
そう語るハイネは楽しそうだった。
「……何?」
「ふふ、ううん。ハイネは国の人が大好きなのね」
「なっ、……、」
ハイネの白い頬が一気に赤く染まる。なんだか思いがけない反応だけれど、とてもカワイイ。気恥ずかしいのか顔を背けていたけれど、その向こうで小さな呟きが漏れた。
「え?」
「なんでもないよ」
こっちを向きなおした時にはもういつも通りの笑顔を浮かべていたけれど、その言葉は微かに私の耳に届いていた。
――「だからって、みんなが僕を好きになってくれるわけじゃない」
(ハイネ?)
じっと見ていると、彼は無言でパクパクとランチを食べてからゆっくり嚥下し、それから再び私を見た。
「ねぇ、さっきの歌、きいてもいい?」
「歌?」
ハイネの言葉に私は首を傾げる。