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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「……うん。そうだね」
「ハイネ……」
「なんで君はお姫様じゃないんだろう」
「ふふ、そうね」
ハイネの子供みたいな言葉につい笑ってしまうけれど、彼は本気でそう思ったように一瞬も笑わず、しばらく肩に彼の重みを感じながら遠くから聞こえる賑わいに耳を傾けていた。
気づけばまた思考の波に飲まれていたのか、沈んでいく夕焼けの陽が、背にした窓から入ってきてダンスホールに私とハイネの影を長くのばした。
――なんでお姫様じゃないんだろう。
ハイネの呟いた言葉がずっと耳から離れない。
本当に、そうだと思った。きっと私が本当の姫だったら、こんな苦しい気持ちにならずにすんだのに。
「……私がお姫様だったら、呪いを解いてあげられたかもしれないのに」
人知れずポツリと呟く。心からつい漏れた言葉だった。
そうしたら、あんな風に暗い部屋で一人ぼっちでいさせないのに。
けれど、それではさっきハイネに語った、「今までの経験が王様をつくる」理論が覆る。私がお姫様だったなら、もっと別のものの見方をしたんだろう。自分の安直な考えにふっと嘲笑がこぼれた。
すると肩に触れていたハイネの頭が揺れだした。どうしたのかと顔を覗き込もうとすると、彼は破裂したように笑い出した。
「ふ、ふふっ……あははははははッ! あは、あはははははははははははッははははッ……、ふっ、くくく、ふあははははははははッ!」
「は、いね?」
彼はお腹を抱えて笑いながらそこら中を転げ周り、足をバタバタさせて息を切らしながら笑い続けている。偶然通りかかったのか何か異変に気づいたのか、次の瞬間、王様が勢いよくドアを開けた。
「これは……」
「お、王様……」
戸惑う私には目もくれず、王様は床に転げまわる幼い忠臣に駆け寄る。
「はははははッ……はあ、ああ、あははッあはは……」
「……」
息も絶え絶えにそれでも天井を仰ぎながら笑うハイネに、王様は抱き起こそうと無言で手を伸ばすけれど、彼はそれを叩いて拒否する。そのまま寝そべって目だけを私に向けた。
「ねえ、君。君さあ、面白いことを教えてあげようか」
「え?」
「ハイネ……っ」
焦ったような声が響いた。
ハイネは口角をにんまりと引き上げる。
私はなぜか、とても嫌な予感を感じた。
「王様は僕だよ」