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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
ハイネの言葉が理解できなくて、ただ茫然と彼を見ることしか出来ない。
広く冷たい床の上に寝転んだまま、楽しそうに目を細める少年。
まだ十五歳くらいにしか見えない、愛くるしい見た目と小柄で中性的な体つき。白く細い手足を床に投げ出して、金糸の髪をさらさらと額を流れる。
「ハイネが……王様……?」
「そうだよ。僕の名前はベルハイム・ブルクスアイ四世。正確には戴冠式をしてないから王子だけどね。ずっとこいつに抱かれてると思ってたんでしょ? 本当は僕だよ。目隠しはそのため。驚いた?」
ハイネはキャッキャと可憐に笑うけれど、私はその言葉もうまく聞き取れない。
(王子? 私を抱いていたのは、ハイネ?)
ふと、傍らに立つ真っ黒な夜の使者を見る。うつむいているのかハイネを見ているのか、頭は下げたままその姿勢からでは感情が読み取れない。
ハイネが本当の王様なら、この人は誰なんだろう。
本来の姿なのか、ハイネは男を見上げてを片肘つくと、むうと不満げに唇を尖らせる。
「……ハイネ様、汚れます」
「うるさいなあ。父上の名前をせっかくあげたのに、お前は全然仕事しないじゃないか」
「ま、待って! あなたが本当の王様なら、この人は……」
私は堪らなくなって声を上げてしまったけれど、男は顔を上げない。代わりにハイネが答えた。
「なんでもない、ただの人間だよ。異国の血が強くてここら辺じゃ珍しい風貌だけどね。これが普通。呪いでもなんでもない、僕のしもべ」
「呪い……は……じゃあ、それも嘘?」
「この姿は今だけで、呪いが解けたら美しい姿に変わるとでも思った? それなら少しくらい我慢しても優しくしておこうかなって? あはは、女は本当にしたたか」
「そんなつもりは……」
この人の見た目がどうとか、呪いが解けるまでの我慢とか、そんなつもりはなかった。けれど、うつむく男に変化はなくても、ハイネの言葉尻に滲む感情はビリビリと感じた。
――憎悪。
女に対してなのか、私に対してなのか、それとも自分以外の全てに向けられたものなのかもしれない。
ハイネはふと、目を細めて立ち上がった。
「呪いならあるよ。見せてあげる」
「ハイネ様……!」
男はハッとして顔を上げる。私の奥の外を見て、それからゆっくり私を見る。