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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
王様じゃない、呪われてもいない、そこに立っているのはただの大きな男の人。
もうまさに沈もうとしている夕陽の強い光を受けて、すべてを隠した牢屋のような髪が透けてその奥の本当の顔を映し出した。輝く緑の目や、指が切れてしまいそうな頬骨、くっきりとした目鼻立ちに負けないくらい一文字にきられた口。
ああ、確かに王様ではない。その姿は凛々しくも心優しい騎士だ。その目が怯えるようにして背けられ、小さな王様に向けられる。
「う、」
陽が沈み、わずかな外からの薄明かりの中でハイネは少し苦しそうに体を折り曲げた。
「う、ぐ、ぅ」
「ハイネ……?」
すぐに視界は鈍り部屋は真っ暗だ。ハイネの姿も男の姿も見失う。すると急にドアの方で明かりが灯った。
それは手持ちの燭台に火を点した男だった。躊躇しながらこちらに向かってくる。
「ハイネ様……」
「いいから、僕を照らせよ」
「……」
男は一度は歩みを止めたけれど、ハイネに促されて苦悶の様子でゆっくりと近づいてくる。そのぼんやりとした明かりが、すでにハイネではなくなった大きなシルエットを徐々に暴いていく。
その姿に私は既視感を覚えた。
蝋燭の明かりに浮かぶ大きなたてがみと牛男のような体。醜悪に満ちたおぞましい形相。
「――ッ!」
男が彼を完全に映し出したとき、私は両手で口を押さえていないといけなかった。そうでなければ間違いなく叫んでいたし、手に力をこめていないとまた気を失ってしまいそうだったからだ。
大きくグロテスクな姿になったハイネは肩を揺らした。
「ほら、どうやって呪いを解くの?」
ぞっと全身の毛が逆立つような低くしわがれた声。
太く節々を膿んだように変色した大きな手が伸ばされた途端、私は思わず走り出した。
「ミア!」
「あはははははは! 逃げろ逃げろ!」
空気をビリビリと振動させるような彼の笑い声がいつまでも耳に響いていた。
もうまさに沈もうとしている夕陽の強い光を受けて、すべてを隠した牢屋のような髪が透けてその奥の本当の顔を映し出した。輝く緑の目や、指が切れてしまいそうな頬骨、くっきりとした目鼻立ちに負けないくらい一文字にきられた口。
ああ、確かに王様ではない。その姿は凛々しくも心優しい騎士だ。その目が怯えるようにして背けられ、小さな王様に向けられる。
「う、」
陽が沈み、わずかな外からの薄明かりの中でハイネは少し苦しそうに体を折り曲げた。
「う、ぐ、ぅ」
「ハイネ……?」
すぐに視界は鈍り部屋は真っ暗だ。ハイネの姿も男の姿も見失う。すると急にドアの方で明かりが灯った。
それは手持ちの燭台に火を点した男だった。躊躇しながらこちらに向かってくる。
「ハイネ様……」
「いいから、僕を照らせよ」
「……」
男は一度は歩みを止めたけれど、ハイネに促されて苦悶の様子でゆっくりと近づいてくる。そのぼんやりとした明かりが、すでにハイネではなくなった大きなシルエットを徐々に暴いていく。
その姿に私は既視感を覚えた。
蝋燭の明かりに浮かぶ大きなたてがみと牛男のような体。醜悪に満ちたおぞましい形相。
「――ッ!」
男が彼を完全に映し出したとき、私は両手で口を押さえていないといけなかった。そうでなければ間違いなく叫んでいたし、手に力をこめていないとまた気を失ってしまいそうだったからだ。
大きくグロテスクな姿になったハイネは肩を揺らした。
「ほら、どうやって呪いを解くの?」
ぞっと全身の毛が逆立つような低くしわがれた声。
太く節々を膿んだように変色した大きな手が伸ばされた途端、私は思わず走り出した。
「ミア!」
「あはははははは! 逃げろ逃げろ!」
空気をビリビリと振動させるような彼の笑い声がいつまでも耳に響いていた。