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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
気づけば私は風呂場に駆け込み、半狂乱で体を洗った。
あのウインナーのように丸くぶくぶくした手で触れられたと思うと恐ろしくて、同時に吐き気を催して堪らなかった。肌が赤くピリピリと痛むまで擦ったら、今度は膣内がぞわぞわしはじめて、指をいれて夢中でかき出すように擦った。
目を隠すのは、手枷をするのは、王様が私のためにしてくれたことじゃなかった。
王様がハイネのあの姿と入れ替わるのをバレないようにするためだった。
他にはどれが嘘だろう?
名前、地位、二人の過去も?
あの丘でランチをしてくれたのも、山賊に襲われたのを助けてくれたのも、全てはハイネの命令だったのかもしれない。ハイネの姫で、ハイネのメイドだったから優しくしてくれたのかもしれない。
なんて勝手な思い込み。
期待して、がっかりして、ルバルドにいたときと同じ。本当は私に価値なんてありはしなかったのに。
「は、っは、はは……ばかみたい」
頭から打ちつけるシャワーに紛れて熱い涙が滴るのを感じる。
胸に空洞が空いたような気持ちになって、そこから発する乾いた笑いが止められなかった。
それからしばらくして、ベッドから窓に浮かぶ月をぼんやり眺めているとドアがノックされた。
あの恐ろしい姿が浮かんで心臓が飛び上がり、咄嗟に枕を握り恐々とドアに近づいていくと、からかけられた声は別の者だった。
「ミア、いるか?」
王様、ではない、王様だった者。
私は駆け寄ってすぐにでもドアを開けたい衝動を寸前で止めて、手をぎゅっと握った。
「……、帰ってください」
「……そうだな。すまない」
その声に、言葉に、私の手はドアノブにかかる。それでも、あと少しの力がこめられない。ドアを開けられない。
「君がアメリア様ではないことが分かったらすぐに、返してやるべきだった。すまない……、オレは……君がもしかしたら、あの方を、変えてくれるかもしれないと思った……」
こつと、ドアの上の方にあたる音がした。それは彼の手かもしれないし、額か、もしくは頭かもしれない。
低くため息をこぼすその息遣いさえも聞こえてきそうで、私はそのドアに額を寄せる。