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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第2章 連れられて身代わり
「醜いモンスターですか?」
「ある日突然変わってしまったそうです。詳しくは分かりませんが、昔は王子がいたとかいないとか……お妃様が流行り病で亡くなられてからその王子も姿を消したのです。もうかれこれ二十年ほど前の話で当時は随分と様々な噂が飛び交っていましたけれどねえ……。その後は引きこもってしまって、近隣国との姫様と結婚をしたもののお相手の姫と連絡が途絶えたとか、半狂乱で泣きながら帰ってきたとか、何にせよいい噂は聞きません」
「……」
「あら、申し訳ありません。あくまで噂ですから。ただ言いました通り国自体は豊かになりましたので、国民からの信頼は厚いと。それは旅の商人たちから直接聞いたことですから間違いありません」
取り繕うように今日一番のいい笑顔を向けられても、何のフォローにもならない。でも、それでも行かなければ。
日の光も届かないような黒い木々がそびえる森の先に待っているのはどんな暮らしなのか。私は冷たくなった指先をきゅっと握りこんだ。
「――お待ちしておりました! アメリア・ルバルド・ブーゲンビリア様」
噂のバーチェスにはほぼ半日で着いた。
その国は確かにおとぎ話に出てきそうな暗い暗い森を延々と行った森の奥深くにあった。
地獄の門のようにそびえる塀が周囲からの侵入を拒み、その先にはぬっとして見る者全てを威圧するような塔の形をした大きな黒い城がそそり立っていた。圧倒されながら、馬車の窓からその建物を見上げる。
「さあさあ、お手をどうぞ」
「は、はい」
待っていたのは天使のように愛くるしい顔をした少年一人。馬車の方に荷物を取りに駆け寄る力持ちそうな召使いが二人。しかし持ってきたのは大きめのケースひとつなので一人はすでに手持ち無沙汰だ。
嫁入りに来た姫一行は、教育係のリジーと馬車の御者、護衛が二人と財政難丸出しの扱い。それと僅かな身の回り品を渡された。それでも着の身着のままの暮らしをしている私には贅沢なのだけれど。
私が手を引かれて降り立ったところは人気がなく黒々そびえる森に面した近く。遠くでざわめきが微かに聞こえてくるところから、正規の入り口ではないことは明らかだった。
こちらの装いもなかなかのものだが、豊かな国に来てのこの扱いも不思議だ。もしかしてすでに偽物の姫だとバレてしまっているのかと疑いたくなる。